BOOK1

□嫌いです
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弱々しい行灯の明かりを頼りに、女は男の傷口に濡らした手拭いを当てた。

「…いつまでこんなことを続ける気?」

「お前には関係ない」

物が所狭しと置かれた薄暗い納戸。

滅多に人は通りかからないが、いつ見つかるとも限らない。

女は手早く薬を取り出す。

男は時折顔を歪めつつも、大人しく手当てを受けていた。

「私、あなた嫌い」

「はぁ?」

男が思わず顔を上げた。

「日ごと喧嘩ばっかりで…虚勢を張って、なんでも一人で背負い込んで…。そんなあなた、私嫌いです」

「…別にお前に好かれたいとは思わないが」

「どうして戦うの?戦わなくたって――」

「うるさい」

ぴしゃりと言われて、女は大人しく口を閉じた。




包帯を巻き終えた頃。

ふいに男が、口を開いた。

「ぬらりひょん――」

「え?」

女は聞き返す。

「最近、ここいらで暴れ回ってるって噂の妖怪だ。なんでも、妖怪を無駄にぞろぞろと引き連れているらしい」

「まさか…」

「そいつを倒せば、オレの名も巷に広がるんだろうな」

そう言った男の口元が微かに歪んでいたのを、女は見逃さなかった。

「駄目!今度こそ怪我じゃ済まないわよ!」

立ち上がる男の裾を慌てて掴む。

「…紀乃。お前は着いて来るな」

「待って!首無!!」

妖怪の大将と相目見ゆる、数刻前のことだった。



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