BOOK1
□紫陽花恋慕
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水無月とは、天に水が無い故だそうな。
湿気を含んだ空気が屋敷を包む。
食事の支度が整ったことを主に伝えるために渡り廊下を歩いていたつららは、珍しい人物と出くわした。
いや、正確には、その人物が単独で佇んでいる事が珍しいのだ。
「牛鬼殿?お食事の用意が出来ましたが…」
「あぁ、すまない」
ちらりと顔を向けて、再び外に目を向ける牛鬼。
「何か気になるものでも?」
「いや…。こう雨が続くと、気分も塞いでくるな」
「えぇ、梅雨ですから…。あ、でもホラ!」
つららは指差す。
「紫陽花がキレイに咲いてますよ!」
「あぁ、そうだな…」
そこで会話は途切れてしまった。
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