BOOK1
□守るのは桜
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縁側に風が通り過ぎる。
「なぁ、珱姫」
「はい。なんでしょう?」
花を散らせた桜は、青々とした葉を茂らせていた。
「愛とは、なんじゃろうな」
膝に乗せた夫の表情が分かりかねる。
珱姫は少し考えて、口を開いた。
「愛とは…誰かを守ること」
風に桜の葉が揺れた。
「人は脆い。けれど、誰かを愛し、守りたいと願った時…人はいくらでも強くなれる。そう、母から聞いたことがあります」
ぬらりひょんはむくりと起き上がった。
「珱姫は、守りたい者はいるのか?」
その笑顔は、いつもの――珱姫の好きな笑顔だ。
「…はい」
つられて微笑み、珱姫は夫の手を取る。
「私が守りたいと思うのは、この奴良組の皆様…そして、貴方です」
「珱…」
「皆様が無茶な戦いをしないように、どうか息災でいられますようにと、いつも祈っています」
触れた手から優しさと温もりが伝わる気がした。
「…さすが、ワシが見初めた女じゃ」
ぬらりひょんは妻の肩を抱き寄せた。
「ワシらが無茶を出来るのは、おぬしがいてくれるから。どんなに酷い怪我をしても、おぬしが必ず癒やしてくれるから。そうだろう?」
「…はい!」
桜は、幾度姿形を変えようとも、そこに生き続ける。
人と妖の鎹となる一族を、ずっと見守っていくだろう。
《後書き→》