BOOK1
□曼珠沙華〜想うはあなた一人〜
1ページ/3ページ
めっきり涼しくなった秋の彼岸。
妖怪屋敷・奴良組の仏間では、若頭とその母が揃って手を合わせていた。
線香の匂いが部屋を満たす。
先に瞼を上げたのはリクオだった。
続いて母である若菜も目を開いた。
「ね、母さん。父さんって、どんな人だった?」
仏壇の位牌を見つめたまま、リクオは尋ねる。
若菜は一度目を瞬かせた。
「リクオ、覚えてないの?」
「ううん。少しは覚えてるけど…」
なんとなく、母から見た父の姿を聞いてみたくなったのだ。
若菜は思い耽るように、息子と同じく位牌に目を向けた。
「そうね…」
ゆっくりと口を開く。
「立派な人だったわ。強くて優しくて…何より、とっても大きな器を持っていた」
その声色で、今でも夫を愛しているのが伝わってくる。
リクオは胸が温かくなるのを感じた。
「母さんは、父さんが妖怪だって知ってて結婚したんだよね?」
「えぇ」
「驚かなかったの?」
「そりゃあ、びっくりしたわよ」
ちょっと意外だ。
「だって、家族に会わせてやるって言われて来てみたら、おかしな子たちがいっぱいいるんだもの」
当時を思い出したのか、若菜はクスクスと笑っている。
「…でも、不思議と怖くなかったのよねぇ」
笑うのを止め、今度は首を傾げた。
「どうして?」
母子の視線が絡み合う。
「みんなが、お父さんを慕っているのが伝わってきたから。私もこの人なら着いていっても大丈夫。そう思ったの」
「母さん…」
優しい母の笑顔に、つられてリクオも笑みをもらした。
.