BOOK1
□傍に居ます
1ページ/2ページ
日付が変わる少し前。
つららと若き大将を乗せた蛇妖怪は、空をふよふよと漂っていた。
「あの…リクオ様?」
後ろに流れる髪を押さえつつ、つららは背中に尋ねる。
「突然『散歩に行かないか』だなんて、どうしたんですか?」
「つららは嫌か?」
「いえ、そんなことはないですが…」
誘ってもらえるのはもちろん嬉しい。
リクオは当代ぬらりひょんに落ち着いたばかりで、何か思うことでもあるのだろうか。
つららはそれ以上は追求しないことにした。
「…なぁ、つらら」
「はい」
背を向けたままのリクオに、つららもそのままで応える。
「オレは三代目を継いだ。だが…。妖怪でもましてや半妖でもねぇ、四分の一しか妖怪の血を持たねぇオレを陥れようとする奴が、日本中にはまだまだいるんだろうな」
「大丈夫です!そんな狼藉者はこの雪女が全部凍らせてやります!」
両手に握り拳をつくって振り回すつららを見て、リクオは吹き出した。
「こりゃあ、頼もしい側近だ」
「笑わないで下さい!私は本気ですよ!」
「あぁ、分かってる」
と言いつつ肩を揺らすリクオに、つららはぷぅと頬を膨らませた。
ひとしきり笑ってから、リクオは息を大きく吐く。
「ま、敵と対峙するのもいいが…」
リクオはつららの肩をぐい、と引き寄せた。
冷気が直に伝わる。
「お前は、オレの傍にいろ。それだけでいいんだ」
「リクオ様…」
「オレから離れるな」
大きな手がつららの頬を包み込む。
いつの間に、こんなに男らしい顔をするようになったのだろう。
白い肌に赤みがさす。
「…はい。つららはずっと、お傍におります。未来永劫、ずっと…」
熱い視線が交わる。
夜の冷たい風が肌を撫でても、心は温かかった。
《後書き→》