BOOK1

□あのね
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「わぁっ!すごい高ーい!」

「こらこら、あまり騒ぐと落ちるぞ」

感嘆の声を上げてはしゃぐ夏実を、黒田坊は隣から慌てて抑止する。

二人がいるのは、森の中でもひときわ高い木の上だった。

これは秘密の逢瀬…と言う訳では決してなく。

夏実が祖母の見舞いと千羽のお参りに来ることを黒田坊はリクオから聞かされ、同時に護衛を頼まれたのだ。

こっそり見守るつもりが、あっさり見つかってしまったのは間抜け以外ない。

話をするうちに、修行僧なら空を飛べるかと尋ねられた。

さすがにそれは無理だと言うと、せめて高い所に登ってみたいとせがまれ…。

しぶしぶ彼女を抱えて手ごろな木に登って、今に至る。

てっぺんに近い位置だから視界は割と開けていて、夕焼けの空がよく見えた。

「清継くんに言ったら羨ましがるなぁ。あ、でも、清継くんは妖怪専門か」

「清継とは、おぬしの友人の…?」

「はい。なんて言うか、いい人なんですよ?」

夏実は足をぶらぶらさせていた。

「でもたまについて行けないと言うか…。それに、清継くんといるといつも妖怪に遭遇する気がするんですよねぇ…」

それだけではないだろう、と言う言葉を黒田坊は飲み込んだ。

「いやしかし…それで生きているのだから、おぬしも相当運がいいと思うぞ」

「ほんと!妖怪なんて迷信だと思ってたのに」

夏実は下に視線を向ける。

そこはちょうど、以前夏実が襲われた場所だった。

「身近にはゆらちゃんって言う陰陽師もいるし、実際に見ちゃったら信じない訳にはいかないですもんね」

「…妖怪は遥か昔より存在する。人の世とは常に紙一重だ」

「あれ?お坊さんも妖怪好きなんですか?」

「あ、いや…!なんでもない!」

夏実は首を傾げたが、ふと何かを思い出したように手をぽんっと打った。

表情がよく変わる娘だ。

「私、お坊さんに話したいことがあったんです!」

「拙僧に?」

「はい。ちょっと耳貸して?」

人間の中でも小柄な夏実と、妖怪(人型に限る)の中でも体躯のいい黒田坊。

黒田坊が耳を近付けるには、かなりかがまなければならなかった。

「あのね…」

さわさわと風に葉が揺れた。


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