BOOK1
□始まりの扉
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古めかしくも立派な門を見上げて、若菜はぽかんと口を開けた。
「こ、これが…?」
「そうさ。オレの家、奴良組だ」
隣でどうだ、と言わんばかりにふんぞり返っている男は鯉伴だ。
家族に会わせてやる、なんて言われて連れて来られたのは、閑静な住宅街。
周りの家もそこそこだが、鯉伴が家と呼ぶものは別格だった。
そして彼はその主人だと言う。
「大きいのね。何人くらい住んでるの?」
「ん〜。昔に比べりゃ、だいぶ減ったからなぁ」
それでも出てきた数に若菜はひっくり返った。
「ま、ここで喋っていても仕方ねぇ。百聞は一見にしかずだ」
鯉伴は門扉に手をかける。
突然、若菜がくすくすと笑い出した。
「若菜?どうした?」
「あ、ごめんなさい。前に鯉伴さんから聞いた話を思い出して」
鯉伴は訝しげに首を傾けた。
「オレ、そんなに可笑しな話をしたっけか?」
「えぇ。随分にぎやかなんでしょう?どんな子達がいるのか、楽しみだわ」
その言葉は偽りでもなんでもなく、瞳がきらきらと期待に満ちていた。
鯉伴はあっけにとられていたが、次には口元を引き上げた。
「やはり、オレの目に狂いはなかったな」
「何か言った?」
「いいや」
鯉伴は手をすっと差し出した。
「さぁ、参ろうか。麗しきお嬢様」
どこで覚えたのか知らないが、彼がやると様になるから不思議だ。
「うん…!」
その日、手に手を取って二人は共に門をくぐった。
【後書き→】