BOOK1

□Honey Milk
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コポコポ――…

小鍋を火から下ろし、煮立った液体をマグカップに注ぐ。

白い湯気が立ち、甘い匂いに幸せな気持ちになる。

カナはそれを持って部屋に向かった。

ドアを開けると、なぜかひんやりとした空気が彼女の体を包んだ。

どうやら窓が開いていたらしい。

いつ開けたかと首をひねりつつ、カナはさして気に留めずに閉めた。

ベッドに座り、飲み物を一口飲んだ時だった。

「何飲んでんだ?」

思わず吹き出しそうになり、むせるところだった。

「へっ!?え、えぇ!?」

隣に堂々と腰掛けていたのは、着物の長髪の青年――妖怪の主だった。

「いつの間に!?どこから!?」

「さっき。どこからってのは…」

彼がスッと指差したのは、先ほどまで開いていた窓。

妙に納得してしまったカナだが。

「て言うか、これって不法侵入じゃ…」

すると彼は、フッと笑った。

「そんなもん、オレには無意味だな」

そしてカナの耳元に顔をよせる。

「家の住人に気付かれずに入り込む――それがオレと言う妖怪さ」

色っぽい声にカナはどぎまぎしてしまう。

「…で、これは何だ?」

彼はカナが持つマグカップを見た。

「あ、はちみつみるくです。飲みますか?」

「いや、いい」

すると今度は、テーブルに置かれていたローティーンの女の子向けの雑誌を手に取った。

「あっ、ダメッ!」

カナの制止もむなしく。

それをパラパラとめくり、あるページで彼の手が止まる。

「ふーん。随分人気なんだな」

「それは…、その…」

それは読者モデルを集めた記事で、カナはその中でも大きく写っていたのだ。

写真の彼女は満面の笑みだが、当人は恥ずかしそうにもじもじしている。

「オレとしちゃあ、あんまり人気なのも困るんだけどな」

「え…?そ、それってどういう意味…ですか?」

「さて、どういう意味でしょう?」

彼はニヤリと口の端を上げた。

「多分、カナちゃんが思っているような意味なんじゃないか?」

「えぇーっ!?」

秋の夜は甘く溶けていく。

そう、まるではちみつみるくのように――。



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