BOOK1

□雪と笠
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正月明けの、日曜の朝。

友人と出掛ける約束をしていた夏実は、バス停に一人佇んでいた。

周りは閑静な住宅街。

お気に入りのチェックの手袋をつけて、自らの体を抱きしめる。

少し前から、ちらちらと雪が降っていて、夏実は傘を持ってくれば良かったと後悔していた。

すると、不意に夏実の頭上に影が落ちる。

「――おぬしは雪だるまにでもなる気か?」

上から聞こえた声に夏実は勢い良く振り向き…

途端、顔をほころばせた。

「お坊さん!」

そこには、いつぞやの黒髪長身の僧侶が微笑みと共に立っていた。

彼は肩に積もった雪を優しく払ってくれる。

視界が妙に暗いと思ったら、彼が笠をかぶせてくれていたからだ。

夏実が再会を喜んでいると、彼の手が伸びてきて頬を包み込んだ。

「随分と冷たいな」

「あ…しばらくここにいたから…」

「一人でか?」

「…うん」

大きな手が離れていく。

図らずも残念に思っていると、今度は彼の首巻きが夏実の肩にかけられた。

「ほら、こうすれば雪でも大丈夫だろ?」

二人で一つの首巻きを使っている状態で、頭二つ分の身長差故に、夏実はすっぽりと包まれてしまった。

「あ、あの…お坊さん…?」

「ん?」

頬が赤い理由は、寒さだけにあらず。

夏実は何か言おうと口をぱくぱくさせていたが…

「ううん。ありがとう」

そっと目を閉じた。

すぐそばに、温もりと息遣いを感じる。

確かに彼はいる。

それは、ほんの僅かな時。

けれど夏実には、永遠のようにも感じられた。

「…そろそろ時間切れだな」

「えっ?」

バスのエンジン音が夏実の耳に届く。

「あれ?」

同時に彼の気配が消えた。

姿はなくとも、足跡は雪にくっきりと残っていた。


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