BOOK1
□雪山ノ理
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風は鳴り止む事を知らず、びゅうびゅうと吹き付ける。
倒れた男の上に雪が積もっていく様を、冷麗は黙って見下ろしていた。
「…容赦ねぇなあ」
からかい混じりの声を聞き、冷麗は振り向く。
すぐそばの木の上に、鎌を背負った少年がしゃがんでいた。
「イタク、見てたのね」
「別に見たくて見てた訳じゃないがな」
足が雪に沈むのを避けてか、もしくは彼の癖か、イタクは下りようとはしない。
「…にしても、何も殺す必要はなかったんじゃないか?何かのはずみで迷い込んだだけだろうし」
冷麗は、人間だった塊を冷たく一瞥した。
「雪山には足を踏み入れてはならない。これは古くからの理よ」
「…さしずめ、雪女はその番ってか?」
イタクは肩を竦める。
そして、木から木へ飛び移り、さっさと退散していった。
イタクを無言で見送り、冷麗もその場を後にした。
雪は絶え間なく降り続ける。
まるで、異物を拒むかのように…。
《後書き→》