BOOK1

□濡羽の君
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日曜日、天候は晴れ、風は微弱。

絶好の運動日和のこの日、珍しく清継に連れ出されなかった島は、自主トレに励んでいた。

広い公園は、家族連れでピクニックを楽しむ人達や、島のように体を動かす人達などで活気づいている。

「よっ、ほっ…」

リズミカルにリフティング。

島には朝飯前だ…が。

「おっと」

たまに失敗もある。

バウンドして転がっていくボールは、芝生に寝転がる男達にぶつかった。

「すいませーん。ボール取ってくださーい」

男の一人が、のそりと起き上がった。

とても好意的とは言えない目つきでサッカーボールを見て、それから島を見る。

「…これか?」

「あ、そうっす」

男はがしっとボールを鷲掴みにして、そのまま島ににじり寄った。

「…ガキがうろちょろしてんじゃねえよ」

「へ?」

更に男が二人、何事かと集まってきた。

横柄な態度で島の前に立ちはだかる。

「や、でも…わざとじゃ…」

「せっかく良い気分で寝てたのが台無しだ。どうしてくれんだ!アァ!?」

「ひっ…すいませ…」

男達の剣幕に震え上がる島。

「やめな」

そこに凛とした声が届いた。

声のした方を向くと、セーラー服を着た背の高い女性がいた。

高校生だろうか。

フレームの細い眼鏡をかけ、いかにも優等生な雰囲気を持ち合わせている。

「なんだあ、お姉ちゃん」

「一人の少年によってたかるとは、見苦しい」

「おいおい眼鏡っ子ちゃん」

一人の男が近付く。

「気が強いのはキライじゃないが、ほどほどにしといた方がいいんじゃねーの?」

無遠慮に伸びた手を、彼女は素早い身のこなしでかわした。

男の背後を取る。

さらりと、肩で切り揃えた黒髪が揺れた。

その時、島は前日のテレビを思い出した。

クイズ番組で出た、“烏の濡羽色”と言う言葉。

確か意味は…カラスの濡れた羽のように、青みがかった美しい黒――。

彼女にぴったりだと思った。


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