BOOK1
□濡羽の君
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彼女は男の腕に自分の腕を絡め、関節技でねじ伏せてしまった。
時間にして、二秒にも満たないだろう。
「いっ、いてててっ!!」
「は、早ぇ…」
「有段者か…?」
悲痛に叫ぶ男の傍らで、他の男達はぽかんと口を開けている。
もちろん、島も。
「この少年に二度と絡まないと誓うなら、放してやってもいいが…どうする?」
眉一つ動かさずに彼女は言った。
男達は口々に許しを懇願し、腕を離されると早々に去ってしまった。
「低脳な…」
服装も表情も乱さずに呟くと、彼女は島へ視線を向ける。
「怪我はないか?」
「あっ、はい!大丈夫っす!」
「そうか」
切れ長の双眸が僅かに細められた。
誰もが認める、知的なクールビューティー。
転がっていたボールを手渡してくれた。
気をつけなよ、と言って歩き出した彼女をぽけーっと見つめていた島は、我に返って慌てて追いかけた。
「あ、あのっ!ありがとうございました!その…名前…」
「名乗る程の者ではない」
お決まりの台詞も、彼女が言うと様になった。
それ以上は何も発することなく、彼女の姿は小さくなっていく。
夢心地でいる島の足元に、一枚の漆黒の羽が舞い降りた。
《後書き→》