BOOK1

□情欲
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「夏実…」

少女を呼ぶ声色は、鳥肌が立つほど甘い。

「…んっ、む……」

逃げる舌を舌で捕らえ、口内をかき回す。

零れる唾液、幾度となく重なる唇。

荒々しく唇をむさぼりながら、黒田坊は胸中で自嘲していた。

何百年も恐れられてきた妖怪たる己が…人間、それも幼さすら残す小娘に夢中になっている。

なんと可笑しな事か。

「くっ…」

喉の奥で小さく笑う。

すると、夏実は薄く目を開けて訝しげな視線を寄越してきた。

それが面白くなくて、黒田坊はまた深く口づけた。

「んむぅっ」

後頭部を掌で固定し、細腰に回した腕に力を込める。

発せられる水音は官能的で、もはや息苦しさも心地良い。

「…お、坊…さ…」

「黒、と」

黒田坊はいったん唇を離し、息を整えた。

夏実の頬は紅潮し、瞳は潤み、荒く呼吸を繰り返す口元は汚れてしまっている。

少女特有の色香が男を煽る。

「黒と呼んでくれ…っ」

優しく諭すつもりが、余裕のないのは己の方。

黒田坊は夏実の唇に噛みついた。

「黒……黒ぉ…っ」

必死に黒衣を掴み、合間合間にうわ言のように繰り返す夏実が愛おしくて。

すべてを奪い取るかのように、黒田坊は深く熱く吸いついた。



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