BOOK(牛頭雪)

□つめたいそれは、甘く
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暦の上では春でも、まだまだ厳しい寒さが続く如月十四日。

東京に居を構える奴良組の台所は、一段と賑やかだった。

「若菜さま!こっちは終わりましたよ」

「奥様、ここはどうするのですか?」

「きゃあ!どうしましょう、若菜さま〜」

絶えず呼ばれて翻弄されながら、それでも台所を取り仕切る若菜は楽しそうだった。

そう、バレンタインデー。

奴良組では毎年、若菜や女妖怪たちから手作りチョコが披露される。

屋敷に住まう妖怪たちは、バレンタインを理解していなくてもお菓子が貰えるのが嬉しいようで、いつも美味しそうに食べてくれるのだ。

若菜にとっては、それが何より嬉しかった。

「そういえば、あなたたちは個人的にあげたい人はいないの?」

そうは言っても・・・と答えたのは毛娼妓だ。

「もちろん若には差し上げたいですけど・・・他に奴良組でいい男といったら、黒と首無くらいですしね〜」

のんびりと言いながら、湯煎でチョコをとかしている。

他の妖怪に聞いても、答えは同じようなものだ。

(妖怪ってそんなものなのかしら?)

ふと、傍らでケーキの生地を懸命に混ぜている雪女が目についた。

「つららちゃんは、誰かいるんでしょ?」

「それはもちろん、リクオさまです!」

自信満々に答えた雪女に、若菜は意外だ、という顔をした。

「そうなの?私、てっきり・・・」

「てっきり?」

「てっきり、あの子かと思ってたわ。ほら、最近奴良組(うち)に来た二人組の、袴の子」

「なっ・・・」

いつの間にか周りも手を止めて、雪女に注目している。

「へぇ〜。どーなの、雪女ちゃぁ〜ん?」

「毛娼妓まで!どうして私が、あんな馬鹿にあげなきゃいけないのよ!!」

「あら?ムキになるってことは、そうなのかしら?」

「だから!!あ〜〜〜もうっ。ほら、手を休めないで!若菜さまも、お菓子が焦げますよ!」

雪女はその後、専用のガトーショコラを(無理矢理)作ることとなった。
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