BOOK(牛頭雪)

□満月の夜に
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夜の帳が下りた。

屋敷の大半が寝静まった頃、雪女は顔を上げて、無数の星たちに混じって煌々と輝く望月を見つめていた。

今日も一日が終わった。

・・・いや、まだだ。

廊下を軋んだ音をたてながらこちらへ歩いてくる人物。

武闘派・牛鬼組の頭にして、自分の恋人。

「牛頭丸・・・」

常に悠然とした態度は臆することがない。

「雪んこか・・・?」

間近まで迫った時、彼は突然抱きついてきた。

いや、覆い被さったと言う方が正しいか。

「わり・・・」

その体はいつもより熱くて、呼吸も速い。

そして、彼から発せられる香りは・・・。

「お酒くさ〜〜い!!酔ってるの!?」

「わりぃ・・・」

二度目の謝罪。

「もう、ちゃんと立って!重いわよ!」

離れようとしない牛頭丸を雪女は引きずるようにして、どうにか部屋まで連れてきた。

畳に突っ伏してしまった牛頭丸の息は荒くて、辛そうだ。

水でも持って来ようと立ち上がったら、着物の裾を掴まれた。

「牛頭丸。お水持ってくるから、放して?」

「・・・いい。ここに、いろ・・・」

少々意外だったけれど、甘えてくる彼が可愛く思えて、その頭の下に膝を潜り込ませた。

「で、こんなに酔うまで何してたの?」

呆れ気味に問うと、牛頭丸はのそりと動いて仰向けになった。

「・・・あいつに呑まされたんだよ・・・」

「あいつって、リクオ様?」

「・・・あの野郎・・・」

総会の後、遠くから来た牛鬼組の二人を労いたいというリクオの計らいで、宿泊することになったのは雪女も知っていた。

牛頭丸の話によると、それを口実に晩酌に付き合わされ、馬頭丸が潰れた後も妙な酒を散々呑まされて、挙げ句の果てに放り出されたそうな。

言葉遣いは戴けないが、今夜限りは仕方ない。

雪女が牛頭丸の髪をゆっくりと梳いていると、彼の掌が頬に触れてきた。

何かを欲する目・・・。

雪女は頭を下げて、その期待に応えた。




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