BOOK(牛頭雪)

□災難
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それは、昼下がりの出来事。

どしーーんっ

派手な音に妖怪たちが何事かと集まってみれば、尻餅をついた雪女が涙目で腰をさすっていた。

「つらら!?どうしたの?」

「あ、若。すいません、ちょっと転んじゃって・・・」

リクオが異国の王子様よろしく、手を差し出す。

「大丈夫?立てる?」

「いえ・・・強く打ったみたいで・・・」

痛そうに顔を歪める雪女。

それを見かねて、リクオはひょいと雪女を抱き上げた。

「わっ若!?何を・・・!」

「だって痛くて歩けないんなら、こうするしかないんじゃない?」

「そ、それは・・・でも・・・っ」

雪女がじたばたと暴れている所に運悪く現れたのが、牛頭丸と馬頭丸。

リクオと牛頭丸が無言で見つめ合い、それを雪女が交互に見比べる。

さらにそれを奴良組の妖怪たちが見守る。

そんな微妙な沈黙を破ったのは馬頭丸だった。

「あの・・・なんかすごい音がしたから、様子を見に来たんだけど・・・」

牛頭丸の後ろから顔を出したが、気まずくなったのかまた引っ込んでしまった。

やがてリクオは雪女に目をやってから、牛鬼組の二人に近付き・・・

「はいっ」

と、まるで荷物のように雪女を牛頭丸の腕に乗せた。

目を白黒させる本人たちや周囲をよそに、一人明るい笑顔を見せるリクオ。

「もう大丈夫みたいだから、後は任せたよ」

「は?」

そして野次馬の妖怪たちを散らせながら、自分も去っていった。

残されたのは牛頭丸と雪女。

それと馬頭丸。

「あのー・・・」

牛頭丸の腕の中から雪女が遠慮がちに声をかけると、それが合図であるかのように牛頭丸は踵を返し、歩き出した。

騒ぐ雪女を抱えたまま牛頭丸がずんずん進み、やがて廊下の角を曲がるまで馬頭丸は見送った。

「もーっ。なんだよみんなしてーっ」

哀れな馬頭丸。

しかし、本当に災難なのは彼ではなかった。


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