BOOK(牛頭雪)
□月と湯と男の色気
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大浴場の手前で、おそらくそこから出てきたであろう牛頭丸と出くわした。
ほどかれた髪は濡れていて、大人っぽく見える。
しかしそれは、あっけなく崩れた。
「こんな遅くまであのガキの世話か?毎日毎日、ご苦労なこった」
「私は、リクオ様のお世話以外にもやることがあるの。ふざけるのも大概にして」
つららは、少しでも惹かれた自分が間違いだと思った。
「それより、髪ちゃんと拭きなさいよ。風邪なんて引かれたら迷惑なんだから」
早く離れようと思っていたら、肩をがしっと掴まれて壁に押し付けられた。
着替えと手拭いがふぁさりと落ちた。
「だったら、お前が拭いてくれよ」
両側は彼の腕に挟まれて、動けない。
「な、なんで私が・・・!」
「いつも本家の連中の面倒みてんなら、俺のことくらいどうってことないだろ」
意外に綺麗な髪からしたたり落ちた雫が、つららの襟元を濡らす。
月明かりも手伝って余計に色気が増しているものだから、まるで別人のよう。
「なぁ・・・」
「だっ、駄目ーーーっっ」
思わず突き飛ばしてしまった。
突然のことに、さすがに尻もちをついた牛頭丸。
「お風呂でのぼせたんじゃないの!?少し頭を冷やしなさい!」
おまけに氷を一つおみまいして、つららは大浴場へ駆け込んだ。
今宵は満月。
ざわめく心は、そう簡単には落ち着かないようだ。
《次項:あとがき》