BOOK(牛頭雪)

□雨の贈り物
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皐月の下旬、雨上がりに夕食の買い出しに来ていた二人。

散歩も兼ねて土手を歩いていた時だった。

「見て!」

突然声を弾ませたつららが示す方向に牛頭丸も目を向けると、そこには。

「虹・・・」

七色の光の橋が、空に見事な曲線を描いていた。

「きれい・・・」

つららがそれに見とれていると。

「『虹の麓には、宝物が眠ってる』」

「え?」

思わず振り向くと、牛頭丸は目を細めて虹を見つめていた。

「昔、誰かに言われた」

「あら、意外にロマンチストなのね」

眉をひそめたのを見ると、どうやら外来語が分からないらしいので、夢や空想を好むこと、とつららは教えてやった。

「そんなんじゃねぇよ。ただ、ガキの頃だから、その時は純粋に信じてた。本当に何かあるんだと思って、虹を追い掛けたこともあった」

「それで、何か見つけた?」

「いや。何処まで行っても木ばっかで、そのうち霧が立ち込めて見えなくなっちまったよ」

ふっと、牛頭丸は呆れたように笑った。

「今思えば、んなことあるはずがねぇ。大人が作り出した子供騙しだろうからな」

「それはどうかしら」

訝しげに顔を横に向ければ、つららが楽しそうに微笑んでいた。

「ずっと昔は、本当に宝物があったのかも知れないじゃない。今だって、単に知られてないだけで、もしかしたら存在するのかも」

「そんなの――」

「私はそういうの、好きよ?少なくとも血生臭い闘いよりずっといいわ。あなたにその話をした人は、夢をもって欲しかったんじゃないかしら」

確かにあの時の自分は、夢中になっていた。

雨が降るのを期待して、降ったら早く止むのを願って、虹を探して・・・。

相手の思惑通りになっていたのはいささか癪だが、感謝するべきか。

ふと我に返ると、歩みが遅くなっていたのだろう。

数歩先でつららが、早く来いとばかりに此方を見ていた。

それはちょうど、虹と重なる位置で・・・。

牛頭丸は、彼には珍しく穏やかに微笑んだ。

・・・が。

「さぁ、早くしないと特売のお野菜がなくなるわ」

「つーか、なんで俺が・・・」

「居候なんだから、少しは手伝いなさいな」

「好きでやってる訳じゃねぇ」

すたすたと進むつららにしぶしぶ着いていく牛頭丸だった。



虹の麓の宝物。



それは何処にあらん・・・。



〔次項⇒あとがき〕
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