BOOK(牛頭雪)
□雨の贈り物
1ページ/2ページ
皐月の下旬、雨上がりに夕食の買い出しに来ていた二人。
散歩も兼ねて土手を歩いていた時だった。
「見て!」
突然声を弾ませたつららが示す方向に牛頭丸も目を向けると、そこには。
「虹・・・」
七色の光の橋が、空に見事な曲線を描いていた。
「きれい・・・」
つららがそれに見とれていると。
「『虹の麓には、宝物が眠ってる』」
「え?」
思わず振り向くと、牛頭丸は目を細めて虹を見つめていた。
「昔、誰かに言われた」
「あら、意外にロマンチストなのね」
眉をひそめたのを見ると、どうやら外来語が分からないらしいので、夢や空想を好むこと、とつららは教えてやった。
「そんなんじゃねぇよ。ただ、ガキの頃だから、その時は純粋に信じてた。本当に何かあるんだと思って、虹を追い掛けたこともあった」
「それで、何か見つけた?」
「いや。何処まで行っても木ばっかで、そのうち霧が立ち込めて見えなくなっちまったよ」
ふっと、牛頭丸は呆れたように笑った。
「今思えば、んなことあるはずがねぇ。大人が作り出した子供騙しだろうからな」
「それはどうかしら」
訝しげに顔を横に向ければ、つららが楽しそうに微笑んでいた。
「ずっと昔は、本当に宝物があったのかも知れないじゃない。今だって、単に知られてないだけで、もしかしたら存在するのかも」
「そんなの――」
「私はそういうの、好きよ?少なくとも血生臭い闘いよりずっといいわ。あなたにその話をした人は、夢をもって欲しかったんじゃないかしら」
確かにあの時の自分は、夢中になっていた。
雨が降るのを期待して、降ったら早く止むのを願って、虹を探して・・・。
相手の思惑通りになっていたのはいささか癪だが、感謝するべきか。
ふと我に返ると、歩みが遅くなっていたのだろう。
数歩先でつららが、早く来いとばかりに此方を見ていた。
それはちょうど、虹と重なる位置で・・・。
牛頭丸は、彼には珍しく穏やかに微笑んだ。
・・・が。
「さぁ、早くしないと特売のお野菜がなくなるわ」
「つーか、なんで俺が・・・」
「居候なんだから、少しは手伝いなさいな」
「好きでやってる訳じゃねぇ」
すたすたと進むつららにしぶしぶ着いていく牛頭丸だった。
虹の麓の宝物。
それは何処にあらん・・・。
〔次項⇒あとがき〕