BOOK(牛頭雪)
□惑い、酔う
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月の明るい夜更けに、つららは縁側に座す一人の男を目に止めた。
「何してるの?」
男…牛頭丸の表情がどこか憂いを帯びているのに、不覚にも見とれてしまった。
――のも束の間、彼の傍らに転がっているものと、その手に収まっているものを見て、つららは盛大に溜め息をついた。
「徳利と盃の数が合わないから、おかしいと思ったのよ。本家預かりのくせに晩酌なんて、いい身分じゃない」
「リクオの奴が出してきたんだ。オレじゃねぇ」
「で、そのリクオ様は何処?」
牛頭丸はかぶりを振る。
「そこらにいた妖怪に乗って、ふらっと行っちまったよ」
つららはまた一つ息を吐いた。
「とにかく、そろそろお終いにして。いつまでもこんなところにいられちゃ迷惑だわ」
「雪んこ」
「何よ?」
黙って手招きをする牛頭丸。
まったく、これだから酔っ払いは困る。
仕方なく隣に腰を下ろすと、てっきり酌をしろと言われるのかと思いきや、予想に反して牛頭丸は自分で酒を注ぎ、盃を仰いだ。
そして近付く彼に反応する間もなく、唇を塞がれた。