BOOK(牛頭雪)
□犬も喰わぬは
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麗らかな春の日射しが、捩眼山に降り注ぐ。
厳粛な佇まいの妖怪屋敷で、今日も静かに朝が始まる。
・・・訳がなく。
ガシャーーン
「大変だぁ!」
「誰か雑巾持って来い!」
食器がひっくり返る音と、次いでばたばたと走る音。
その中に男女の罵声が交じる。
「何するのよ!!」
「うるせぇ!!なんで冷めた味噌汁なんか飲まなきゃなんねぇんだ!!」
どうやら、朝餉の主役・味噌汁が零れた様子。
それを慌てて片付ける妖怪たちの傍ら、のんびりと箸を動かす二人がいた。
「牛鬼様、どうしましょう」
馬頭丸がさほど焦った風でもなく、隣の男を見上げれば。
「放っておけ。そのうちおさまるだろう」
今は隠居の身となった牛鬼は、静かに息を吐く。
その間も罵り合いは拡大し、下僕たちはお手上げ状態。
「でも・・・」
と馬頭丸が言いかけた時。
ぴたりと静かになった。
「あれ?」
直後。
山の頂を、季節遅れの猛吹雪が襲った。
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