BOOK(牛頭雪)

□初夏日和
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梅雨の合間の晴れ時、どこからか空を切る音が聞こえる。

それに伴う威勢のいい声。

疑問に思ったつららが屋敷内を探ると、裏庭に当たる所に、武闘派で名を連ねる牛鬼組の若頭がいた。

牛頭丸は鋭い眼差しで、架空の相手に刀を振り下ろしてはまた踏み込む。

突き、上段、払い…。

多少の乱暴さはあるものの、無駄のない動きは流石と言うべきか。

その懐に飛び込んで斬られる敵が見えるようだ。

覇気の強い声に、心が揺さぶられる。

つららはそれをしばらく眺めていた。

そして、最後に相手の喉元に切っ先を突き付ける形で、鍛錬は終了したらしい。

運がいいのか悪いのか、彼の視線の先に自分がいて、しっかりと目が合ってしまった。

「…見てたのかよ」

「べ、別に…!ただ、この奴良組で米櫃荒らしが変なことしてないか、見張ってただけよ!」

暴れる心臓を必死に抑える。

「…悪かったな、米櫃荒らしで」

ふと顔を上げると、予想外に牛頭丸が近くにいて驚いた。

手首を掴まれ、引き寄せられる。

「丁度いい…。汗、拭いてくれよ」

低音が鼓膜を刺激する。

「そ、そんなの自分でやりなさいよ…!」

「なんだ?オレの言うことが聞けねぇのか…?」

掴んだ腕はそのままに、更に近付いてくる。

「お前、可愛いな」

「え…」

熱い息が耳にかかる。

「なぁ…雪んこ…」

つららは袖口をきゅっと握り締める。

水滴が一つ、彼女の首筋を流れ落ちた。



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