BOOK(牛頭雪)

□できました
1ページ/2ページ


「牛頭丸、話があるの」

ある日、つららは真剣な表情で夫の前にかしこまった。

嫁が眉根を吊り上げて己に突っかかってくる事はあっても、このように改まる事など皆無に等しい。

牛頭丸も背筋を伸ばして向き合う。

「なんだよ」

つららは深く息を吸い、静かに吐いた。

そんなに深刻な事なのだろうか。

そして口を開いた。

「――――…たの」

「は…?」

牛頭丸は耳を疑った。

今、とんでもない単語が飛び出した気がする。

「だからっ…!赤ちゃんが、できたの…っ」

どうやら嘘でも夢でもないらしい。

「……へぇ」

牛頭丸はまるで他人事のように零し、ふいっと体ごと逸らした。

これに当然つららは不満を持つ。

「ちょっと、他に何か言う事はないの!?」

「何かって何をだよ」

「ほら…例えば、でかしたぞ、とか」

「あぁ、雪んこにしちゃ上出来か」

「またその呼び方!しかも、何よその言い草!ちょっと、牛頭丸っ!」

つららは牛頭丸の肩を掴んで、無理矢理振り向かせた。

すると、意外や意外。

牛頭丸の目許、頬、耳までもが真っ赤になっていた。

「もしかして、照れてる…?」

「…悪ぃかよ」

バツが悪そうに顔をふせる牛頭丸に、つららは首を振った。

牛頭丸は優しく、愛おしむように彼女を抱き寄せる。

実感はないが、不思議な気持ちだった。

「ねぇ、牛頭丸。嬉しい?」

「あぁ」

「そっか。良かった」

ふふっと笑って、つららは夫に体を預けた。

「牛鬼様と馬頭に報告しねぇとな。あと、リクオの奴にも」

「うん」

つららの手に牛頭丸のそれが重なる。

まだ膨らんでいない腹を、二人でゆっくりと撫でていた。



《後書き→》
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ