BOOK(牛頭雪)

□名残雪
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長い冬が終わり、ようやく春が訪れんとしている頃のこと。

「皆さーん!朝ですよーー!」

リクオをはじめとする奴良組の面々は、早朝からひたすら元気なつららによって起こされた。

のそのそと、屋敷のそこかしこから妖怪たちが顔を出す。

その中でも、ひときわ眠そうで不機嫌な二人がいた。

たまたま捩眼山から本家を訪れていた、牛頭丸と馬頭丸である。

どすどすと廊下を踏み鳴らしながら、想定外の目覚ましに牛頭丸は愚痴をこぼす。

「朝っぱらから、アイツはなんであんなに元気なんだ」

馬頭丸は目を擦っている。

「ん〜、たぶん雪が降ってるからじゃない?」

「雪だぁ?馬頭丸、てめぇ何言って…」

ふと牛頭丸は庭に目を向ける。

確かに空からひらひらと舞い降りるものがあり、牛頭丸は目を見張った。

「馬頭丸よ…今は何月だ?」

「卯月だね〜」

ふわぁ、と盛大にあくびをかます馬頭丸。

「卯月になんで雪が降るんだ」

「そんなのボクが知らないよ。あ、でも、あれじゃない?」

「なんだよ」

うんうん言いながら首をひねる馬頭丸。

不意に、ぽんっと手を打った。

「あぁ、名残雪!」

「名残雪ぃ?」

牛頭丸は眉を寄せる。

「そう。雪がね、冬が終わってしまうのが寂しくて、最後に名残惜しそうに降るの。なかなか風流じゃない?」

「どこが」

否定の意を示した時、後ろから何者かに思いっきりどつかれた。

「ほらほら!牛頭丸、馬頭丸!」

正体はつららだ。

「ゴホッ…雪んこ、てめぇ…」

起き抜けの、腹に何も入れていない身でこれは辛い。

こめかみに青筋を浮かべる牛頭丸に、しかし、つららは笑顔を向ける。

「ぼーっとしていないで、顔でも洗ってシャキッとして来なさいな!朝ごはん、もうすぐ出来るわよ!」

「はーい」

「フン」

二人の間を通り抜けて、つららは足取り軽く廊下の角に消えて行った。

「…面白くねぇな」

牛頭丸が呟く。

そして、つららが行った方向に歩き始めた。

それを眺めるは馬頭丸。

「面白くないって……あ、そうか」

彼はにんまりと口の端を上げた。

「牛頭ってば素直じゃないなぁ」

楽しそうな馬頭丸の耳に、口ゲンカと言う名でじゃれ合う声が聞こえてきた。



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