BOOK(牛頭雪)

□茶を一服
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チャキッ…

手入れを施した刀の具合を、牛頭丸は確かめた。

自らの一部とも言える爪。

刃が照り返す鈍い光に、我ながら上出来だ、と牛頭丸は思った。

刀を鞘におさめる。

――茶が欲しいな。

そう考えた時だ。

「牛頭丸、いる?」

部屋の外から声をかけられて、牛頭丸は眉をひそめた。

その声の主が、わざわざ己を訪ねるほど好意的な間柄とは決して言えないからだ。

「あぁ」

短く返事をすると、障子が静かに開けられる。

そこには、茶を乗せた盆を携えたつららが佇んでいた。

牛頭丸は片眉を上げた。

「…どういう風の吹き回しだ?」

有難いと思う反面、嫌味が口をついて出る。

するとつららは、無言で牛頭丸の前に座り、黙って茶を差し出した。

「だんまりかよ」

「…この前、ちょっと失敗しちゃったから。また淹れてみたの」

どこか憮然とした表情のつらら。

「この前?」

記憶を辿ると、思い当たる節が一つ、あった。

「あぁ…」

つい口角が上がる。

「いつだったか、すっげぇ濃かった時があったな」

嫌味を隠さずに鼻で笑うと、つららは乙女としての醜態を思い出したのか、瞬時に真っ赤になった。

「うっ、うるさい!だからこうやって、もう一度ちゃんと淹れて持って来たんじゃないの!」

「ちゃんと、ねぇ」

牛頭丸は胡散臭そうに湯飲みを見つめる。

「不満なら飲まなくてもいいわよ」

「いや、貰おう」

つららが湯飲みを引っ込める前に、牛頭丸はそれを手に持った。

適度な熱さで、良い香りが鼻腔をくすぐる。

口に含むと、舌に広がる旨みに渋さはなかった。

「…まぁ、上出来だな」

「何よ。偉そうに」

ふいっと顔を背けたつららだが、明らかに安堵しているのが見てとれた。

牛頭丸はまた茶をすする。

「……お前の淹れた苦い茶も好きだがな」

「えっ」

ぼそりと発せられた言葉に、つららはぱっと顔を上げた。

頬にわずかに朱が差す。

しかし。

「まともに茶と呼べるだけ、まだマシと言うだけだ」

次の瞬間。

湯飲みに冷たい氷が投げ込まれ、飛沫がはねた。



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