BOOK(過去拍手)
□始まるリズム
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「なぁ、若菜。まだなのかい?」
はた目にもわかるくらい膨らんだ妻の腹に、べったりと張りつく男。
そこに、哭く鬼も黙る奴良組の、二代目総大将の威厳はない。
張りつかれた若菜は苦笑い。
「鯉伴さんったら。急かさなくても、そのうち動いてくれるわ」
このやりとりも、もう何度目だろう。
「なにも俺は、急かしてる訳じゃねぇんだよ。ただ、ここにいるんだって確かめたいだろ」
「まだ早いんじゃないかしら?」
その時だ。
とくん、と。
若菜の腹が小さく脈動した。
「鯉伴さん…今…」
「動いた…よな…?」
信じられないと言わんばかりの鯉伴に、若菜はこくりと頷く。
「…ははっ」
「ふふ…」
二人で一緒に破顔した。
緩んだ顔を隠そうともしない鯉伴は、若菜の腹に向かって話しかけ始めた。
「おぉーい、我が子よ。父さんだぞ。ほれほれ、もっと動け」
「もう。急に動いたら、この子だって疲れるわ」
そうは言いつつも、若菜は腹の子の父親を止めることはしないでいた。
それは、新たに芽生えた命のリズム。
《後書き→》