BOOK(過去拍手)
□頬をつたうは涙
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透明な雫がひとひら、頬をつたう。
「……どうした」
彼の少し困ったような声音が、冷麗の鼓膜を揺らした。
妖怪任侠において、遠野は傭兵集団。
戦センスのない頭目に雇われて、不覚を取られることもままある。
この度助力を乞うてきた頭はいかばかりか知らないが、イタクは駆り出されて、無事に戻ってきた。
冷麗はその身を案じることはなかった。
なぜなら、彼がヘマをするはずがないから。
けれども。
五体満足の姿を見ると、どうしようもなく目頭が熱くなった。
胸のつかえが下りた心地がした。
「冷麗……どこか痛むのか?」
また彼は、戸惑った様子で問うてきた。
「いいえ。大丈夫よ」
冷麗はかぶりを振り、睫毛に留まって玉となった雫を払う。
そして顔を上げて――笑みをたたえてみせた。
「お帰りなさい、イタク。お疲れさま」
彼は僅かに目をみはって、それから頷いた。
「あぁ――ただいま」
《後書き→》