BOOK(過去拍手)
□蝶舞
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宵闇に、幻のごとく浮かぶ街。
眠る事を知らず、明かりと人々の矯声がせめぎあう。
されど、建物の軒と軒の隙間に滑り込めば、束の間なれど特異な喧騒からは逃れる。
そこを一人の女が、波打つ髪を後方に流して通り抜ける。
女――雪麗は、そこで歩みを止めた。
つい、と腕を上げ、細く白い指を掲げる。
示す先に舞う、一羽の蝶。
いつからか着いて来ていた。
「お前は迷ったの?それとも、雪の眷族かしら」
蝶は雪麗の頭上をひらりと飛ぶ。
応えているつもりだろうが、答えになっていない。
闇の中にあって色を失わない羽は、妖しい程に艶やかだ。
「前者ならば、好きなところへお行き。後者ならば――」
しゃらん……
雪麗は懐から扇を出し、開いた。
扇を動かせば、蝶もつられるように追い掛ける。
艶かしく、時に乱れて。
「そう。お前は分かるのね」
それは、狂おしい程に男を想う女の舞。
飽くことなく求める、愛の具現。
雪麗がひらりと返した扇の上を、蝶が滑る。
扇の柄は流水。
焦がれる想いが流れ、行き着く先は何処。
美しき妖と虫は、嫣然と舞い続けた。
《後書き→》