BOOK(過去拍手)
□添い寝
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おぼろげだった世界が、ふいに形を成した。
夏実は一瞬、自分がどこにいるのか分からなくなった。
暗闇に見える輪郭や、体を沈めている布団の感触は、確かに自分の部屋のもの。
なのに、どこか違うところにいるような気がするのは、どうしてだろう。
「……起きてしまったか?」
低い囁きが、睡魔を散らすことなく、耳に滑りこんできた。
導かれるように寝返りをうてば、滑らかな肌が視界を遮る。
あぁ、きっと、彼だ。
彼のまとう不思議な香りが、違和感を引き寄せていたのだろう。
「……んう……」
夏実は顔の半分まで布団に潜り込んだ。
鼻や頬が冷たい。
世界が凍てつく季節も、すぐそこだ。
縮こまった肩が、男の温かな手に包まれる。
「寒いならば、拙僧の熱を奪えばいい。ほら、もっと寄って……」
扇情的な言の葉と声音が、体の芯をとろけさせて。
どうして、逞しい素肌がこんなにも間近にあるのか、とか。
そもそもどうして、彼と一つの布団にいるのか、とか。
強く誘う睡魔と相まって、気にするゆとりは全くなかった。
「ゆっくり、お休み。拙僧が朝までついていよう」
「……ん……」
頷いたつもりだけれど、たぶん、返事になっていない。
重たくて重たくてしかたない瞼を、夏実はしっかり合わせた。
「もっとも……」
夢のベールがかかる。
「このように可愛らしく擦り寄られては……朝が来ても、拙僧の方が離せぬな」
全身をくるんでくれる温もりは、この上なく、心地よかった。
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