BOOK(過去拍手)

□瞳の奥の、その先に
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一陣の風が吹き、ふと顔を上げた。

妖怪本家・奴良組の敷地は広いから、縁側からは空がよく見える。

今宵は新月。

妖にとって力を失う日。

そこに存在する筈なのに見えなくて、どこか虚無感を覚える。

やけに静かだった。

「つらら」

固有の名を呼ばれて振り返ると、若き総大将がそこに立っていた。

「気になるかい?」

かぶりを振る。

只、胸のつかえがどうしても拭い去れないのだ。

「大丈夫だよ、あの二人なら」

まるで斟酌したかのように、このお方は言う。

不安なんてない。

寧ろ私は幸せ。

それでも、胸襟で祈っている自分がいる。

風にさわさわと揺れる枝垂桜を睨んだ。





早く、来なさいよ。





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