BOOK(過去拍手)
□Cherry blossom
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『ねぇ知ってる?桜の花言葉って、優美な女性って言うのよ』
『そうなの?素敵ねぇ』
そんな会話を、牛頭丸はふと耳にした。
(優美な女性、ね)
奴良組では今日も今日とて、何かが倒れる音と誰かの悲鳴、そしてごめんなさいと叫ぶ雪女の声。
(少なくとも、あいつには似合わねぇな)
廊下を歩いていると、その先から当の本人が小走りでやってきた。
「よぉ、雪んこ」
また何かしでかしたかと、からかってやろうとしたら・・・
「悪いけど急いでるの」
足早に自分の横を通り過ぎていった、その瞬間――
ふわっ
牛頭丸は思わず振り返った。
それに気付くことなく、雪女は部屋の陰に消えてゆく。
残されたのは彼女の香り。
上品かつ優しく、包み込むようなそれは、まるで満開の桜のよう。
「優美な女性・・・」
一人呟いて、牛頭丸はその場を後にした。
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