パロディ書庫

□お隣同士~向日葵感情~
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あれは小学五年生の思い出

「前髪伸びたわね?少しそろえましょう か?」

お母さんにそう言われて私はコクンと頷く

チョキチョキと微かな音が終わって、鏡の前 にいる自分はまた新しく生まれ変わった気分

「はい、出来た!!どうかしら?」

そうお母さんが私に聞いて、私は何度も何度 も頷く

「行ってきまーす!!」

夏の朝

いつもより早く学校へ急ぐ

教室についたら

『カガリちゃん髪切ったの?』 『可愛いっ、いいなぁ』

なんて友達が言ってくれるかもしれない

それってすごくくすぐったくて、今日しか味 わえない感情なんだ

「おはっ………

「うわぁ、ミーアちゃんパーマかけたの?可 愛いっ」

え………

「うち美容室だからね……昨日ママがかけて くれたの」

そうしてフワリと長いウェーブの髪をかきあ げるクラス1の可愛い女の子

前髪をちょっと切ったくらいの自分なん か……誰も気付かない

私にとっては……

少しだけ特別な日だったのに

コツン……

夕方、石ころを軽く蹴りながら川の土手道を 歩く

川端に咲く向日葵の花が綺麗で目を細める

一緒に帰ろうって仲のいい友達は言ってくれ たけど……友達とじゃなくて、今日はなんだ か一人で帰りたくて

「向日葵さんはいいね……みんな見てくれ る……」

川端の向日葵は鮮やかに綺麗に咲いていて、 みんな立ち止まるんだ

……やだな

お母さんが悪い訳じゃないのに

昨日じゃなくて、今日髪を切ってくれれば良 かったとか思ってる……

そしたら明日なら、みんな気付いてくれるの に

そんな時

「カガリ、今帰り?」

肩をトンと叩いた、大好きな声の持ち主

「…………アス兄……」

中学一年生の隣のお兄ちゃん

「朝、ずいぶん早く学校に行ったね?何か良 いことあったの?」

そう言われて、この気持ちを知られたくなく て、必死に言い訳を考える

「向日葵……綺麗だから、早く見たく て………」

そう言って川端の向日葵を指差す

「本当だ、綺麗だね……」

そう言ってアス兄はふんわりと笑う

あれ……

少し心のトゲが取れた気分

「あれ……?」

ふとアス兄が立ち止まって私を見る

「カガリ、髪揃えた?……綺麗になってる」

「っっ………」

ふんわりと私の前髪に触れるアス兄の手

「うん、可愛いね……」

……

ほら

欲しかったのは

このくすぐったい気持ち

大好きだよ、アス兄



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