種、種運命短編作品庫

□チョコレート
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『血のバレンタイン』

それはどれだけ時が経っても
忘れる事の出来ない日

母が死んだ日
父が変わってしまった日

だから…
出来れば思い出したくない
そんな日だ

あんな事が無ければ、自分は軍人になる事は無かったかもしれない

キラと敵として出会う事も無かっただろう


でも……

だとしたら


俺はカガリに出会う事も無かったのかもしれない




「オーブって変な国だよなっ」

現国家元首の彼女が突然そう言った

「はぁ!?」
俺は思わず聞き返す

だって、自分の国を「変な国」呼ばわりだぞ?
誰だって聞き返すんじゃないか?

「だってさぁ、プラントは鎮魂祭とかやっているのにさ……これは……」
そう言って彼女は項垂れた



今俺達は、久々の休暇がとれた為、久し振りに街に出ている(勿論お忍びで)

言われて周りを見回すと
『大好きな貴方へ』
『想いを受け止めて』

愛の告白に埋め尽くされた街

まるでピンク色のオーラでも見えそうだ


明日は憂鬱だな…とそれだけを考えていた俺は、本来の『バレンタインデー』と言うモノを忘れていた

俺はなんとも言えない表情で周りを見回す

と…その時

カガリはぎゅっと俺の手を握った
「プラントの人は思い出したくない日だろうけど……オーブは違うんだよ……ごめん……」
そう言ってカガリは沈んだ顔をした

気を使っているのか……

そう思ったら、彼女がまた愛しくて……俺は彼女の頭をポンポンっと軽く叩く

「そっ、そういう子供扱いをするなっ!!」
彼女はぷぅっと膨れっ面

「ああ……ごめん…」
俺はつい謝る


カガリの性格のせいか、それとも俺の性格のせいか……こんな時甘いムードには中々ならない

何度かキスをしたのに、態度はまるで変わってない気がする

もう少し『男』として気にしてくれても…

そう思う事もある

「私はなっ!!お前の事が気になったんだっ!!」


へっ……?


突然カガリが発した言葉に、俺は驚いた

そして弱冠の期待をした

振り向いて彼女の顔を見た

泣きそうだ………
何故……?


「明日は……お前のお母様の命日だろっ!?」

彼女はそう言った
ああ……
そうか

カガリはずっとソレを考えていて
気を使っていたんだ

そう知ると
自分の事を考えていてくれたと知ると

無性に嬉しくて

さっき少し勘違いした不埒な思いが、恥ずかしくなった


「……命日……か……そんなに深刻に考えてないと思うけど…」
俺はそう言って少し笑う

ぎゅっむ!?

「いっっ!?」

突然両頬をつねられる

「お前っ、そうやって自分の気持ち押し殺して……嘘つくのは悪い癖だっ!!」



痛かった

こうやって手がでるのも彼女の悪い癖だとおもうけど……

でも……
つねられた頬の痛みじゃなくて

これは………
胸の痛み………


「考えてないなんてっ!そんな訳あるかっ!!お母さんと会えなくなった日なんだぞっ!!」

涙をいっぱいにためて叫ぶカガリ

行き交う人々は、俺達がまるで痴話喧嘩か別れ話でもしているのかと横目で見ていく


俺は手を引いた

彼女の顔が人に見えない様に

彼女の全てを包む様に


カガリをそっと抱き締めた
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