種、種運命短編作品庫
□月と桜の初恋
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小さな頃
6月に差し掛かる頃の月へのウズミ出張に、カガリはいつも同行していた
月の桜は品種改良がされていて、普通の桜より花も長持ちする
5月の終わりくらいが丁度見頃で、その時期になると決まってウズミは月に連れていってくれた
ただ……それは文字通り『連れていってくれた』だけで、カガリは仕事の忙しいウズミとは殆ど一緒に居たことがない
あの日もそうだった
屋敷から見える桜を、眺めるだけじゃつまらなくて……
一番綺麗に咲く桜の木に登ったんだ
『………うわぁ………綺………麗………』
上から見る桜並木はものすごく綺麗で……
白いワンピースが汚れてしまって、またマーナに怒られるかな……?なんて思いながら、カガリはその吸い込まれる様な景色をみつめた
『ねぇ………危ないよ?』
『………?』
ふいに下から声をかけられ、その方向を見つめた
育ちの良さそうな男の子が此方を見上げている
『大丈夫〜っ、慣れてるから』
カガリはニッコリ笑った
ズルっっ
『うわっ……』
『危ないっっ!!!』
そう言ったのも束の間
カガリは足を滑らせて桜の木に宙ぶらりんになった
かろうじて掴んでいる手が離れたら、結構な高さがあるから絶対ただじゃすまない
そんな事を考えてると
『手……伸ばしてっ!』
そう言ったのは先程の男の子
しかもあっと言う間にその木に登り、上からカガリを引っ張りあげた
『あっ……ありがとう……』
大丈夫と言った手前恥ずかしくなり、俯きながらカガリは御礼を言った
男の子はその顔を見て優しく笑みを浮かべたのだった
その顔に一瞬見惚れてしまう
『驚いた……でも本当に、ここから見る桜は綺麗なんだね……』
彼はそう言って、桜を目に焼き付けた
『そうだろう?私も登って良かったと思ったんだ……』
『でも一人じゃ危ないよ?』
『うう……それはそうなんだけど………』
男の子の言葉にカガリは顔を赤くして言葉を濁すのだった