+小説+
□華一片ーハナヒトヒラー
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道場では、数人の門下生たちが稽古をしていた。
木刀のぶつかり合う音や、怒声が響く中、その部屋の隅に彼は居た。
「ね、名前は?」
沖田は彼に近づくと上から覗き込む形で首を傾げて訪ねた。
彼は無言のまま前を真直ぐ見据えている。
「ね、教えて?」
まるで子供を宥めるような言い方に、彼はボツリと呟いた。
「・・・何故」
「僕にここまで怪我させたのって、土方さん以来初めてなんだ。だから知っておきたくて。ね、教えて?」
再び「ね?」と言いながら首を傾げるその姿に、悪意は感じられない。
彼は渋々重い口を開いた。
「斎藤一」
「一君かぁ〜可愛いね」
「・・・・・・は?」
あまりにも予想外の言葉に、思わず素っ頓狂な声が出てしまった。
斎藤は怪訝そうな顔をして沖田を睨みつけた。
そんな斎藤を見て、満足そうに微笑む沖田。
「一君って女の子みたいに可愛いよねー」
その言葉にカチンときた。
たまに言われるその言葉が、斎藤は好きでは無かった。
綺麗だ可愛いだなどという言葉は、女子に言う台詞であって、自分に使われるようなものでは無い。
普段は冷静に流すのだが、それが先程対戦した相手だからか、はたまた先程から一々感に触る言い方をするこの男だからかは定かでは無いが、明らかに不満の色を顔に滲ませながら言い返す。
「お前こそ、如何にも女好きといった顔をしているな」
「えー酷いなぁーそんな事無いよー?」
相変わらずヘラヘラした言い方をするこの男にさらにイライラが積もる。
ここに居てもキリが無いし、用事も済んだので早々に退散しようと立ち上がる。
すると、怪我をしていない方の手を優しく、けれど力強く掴まれた。
「ねえ、怪我してるでしょう?手当しよ?」
「・・・っ!必要無い」
突然捕まれビクッとしたが、あくまで冷静に言い放つ。
「駄目だよーちゃんと手当しないと、ね、一君」
またもニッコリ笑って腕を引っ張るこの男に、怒りを通り越して段々呆れてきた。
こんな事でイラついても意味は無い。
「はぁ・・・好きにしろ」
「うん、好きにする」
斎藤が承諾すると、沖田は彼の腕を引っ張って別の部屋へを連れて行った。
そこには既に救急箱が用意してあり、自分を手当する為に用意してくれたのかと思うと、斎藤は少し心が暖かくなった。
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