+小説+
□妖艶な君の蜜
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ねえ、君は解ってる?
その美しさがどれだけ周りを惑わすか。
ねえ、君は解ってる?
その妖艶さがどれだけ周りを揺るがすか。
ねえ、君は解ってる?
その鈍さがどれだけ僕を苦しめてるか。
ねえ・・・
解ってるの?
新選組、其処は男だらけの空間。
基本的に女性は居らず、日々男共が鍛錬を積み重ねている。
精神を正し、武士の道を極める。
しかし、やはり男・・・性欲の捌け口に困る事もしばしば有り、それ故、男色の噂も絶えない。
何番隊の誰と、何番隊の誰が恋仲だ。
何番隊の奴と、何番隊の奴が逢瀬をしているのを見た。
等、事実か無実かはともかく、そういった類いの噂は嫌でも耳に入ってくる。
そして此処にも、その噂が絶えずまた明らかにそれが事実だと主張して回っているような大っぴらな人間が一人。
「はーじめくーん」
明るい声が廊下に響き、歩いていた数名が振り向く。
そんなのはお構い無しに、目当ての人物に駆け足で近づいた。
「捕まえたっ」
「・・・俺は別に逃げていない」
はぁ、と一つ溜め息をつき、肩にのしかかる重みに顔を向けた。
それでも振り解かないのは、やはりその人物が愛しいからである。
「だって朝から見つからなかったからさ。何処にいたの?」
ニッコリと笑顔で聞いてくる。
しかしその笑顔の裏にチラつく闇に斎藤は気付いていない。
「ああ、今日は朝から隊で話し合いがあってな。隊の皆と一緒だったんだ」
「ふぅん、そっか・・・」
「それより、総司、何か用事があったんじゃないのか?」
「うんっ、一君、昼食一緒に食べよ?」
キョトン、とした顔で見上げてくる愛しい君。
ああ、そんなに可愛い顔して。
誰でも彼でもそんな可愛い顔で見つめてるの?
「・・・それだけか?」
「うん、駄目?」
「いや、俺もちょうど食べようと思っていた所だ。中庭でいいか?」
「今日は天気も良いしね、中庭行こうか」
歩き出す斎藤の後ろにピッタリくっついて歩く沖田。
時々、頭を撫でたり首筋に悪戯を仕掛けたりして斎藤に怒られている。
そんな他愛なく戯れる二人の関係は、もはや隊内では公認であり黙認されている。
沖田がどれだけ斎藤を想っているかは一目瞭然だし、斎藤もなんだかんだで沖田に恋心を寄せているのがわかる。
故に、隊内では斎藤に手を出そうという不届き者はいない。
沖田に切られるのは火を見るよりも明らかで、それだけで済まない事がわかっているからだ。
斎藤は小柄で長髪、男から見ても美人で物腰も柔らかい。
そんな彼に想いを寄せる隊員は少なく無いが、沖田の存在によりその者等は淡い想いを心の内に留めておくしかない。
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