小説:-)

□1周年記念フリー文
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あなたならどうする





悲しみにくれる間も、喜びに浸る間もなく日常というものは過ぎて行く。
狂った時計も歯止めが効かなくなり、延々と、永遠と。

AM4:00を時計の短針が教えてくれている。
綱吉はだるそうに体を持ち上げてから、肺から絞り出すように溜め息を吐いた。
この溜め息は、甘く恋する人間達が吐くものとも、落胆し暗鬱になり明日を見れなくなった時に吐くものとも違う。
どちらかといえば、呆れ。
綱吉は隣で眠る男に呆れを込めた視線を投げ掛けた上で、溜め息を深く吐いたのだった。
数年前までは、まだまだ小さくて体力も知能も負けてはおれども兄貴の様な心持ちであったのに。
今では背を越えただけでは飽きたらず、随分とませてしまったものだ。
本当に、昔は可愛かった。
そう。昔は。
でも、今はもう違うのだ。



「何見てんだコラ」



パチッと気持ちの良い位に瞳が開いて、空よりも突き抜け、海よりも深い碧眼が現れた。
本人の荒っぽい性格とは違い、宝石の様なソレに綱吉は再び溜め息を吐く。



「起きてんなら言えよ、お前……ていうかいつから起きてたの?」

「フン、お前の視線が煩かったから目覚めただけだコラ」

「煩いって……そんな見てないってば」



ニィと意地悪く微笑む男に、腕を引っ張られ真っ白なベッドの中に逆戻り。
逞しい筋肉の腕枕は気持ち良いものでは無いが、落ち着くのはきっと昔の馴染みだからだと綱吉は自分に言い聞かせた。
このバクバク煩い胸も、熱くなる顔も、変にかく汗だって。全部全部気のせい。



「昨日の続きでもするかコラ」

「お断りだっつの。大体昨日も言ったけど俺とお前の間にはベルリンのソレよりも高い壁があって、隔てられてる訳。だから恋愛なんて無理、難題。清く諦めて他のグラマーなお姉さんか清楚で可憐な娘でも探しなさい」



よしよし、と眩しい金の髪をすいてやれば今まで意地悪そうに笑っていた顔が一転、むすくれた顔になる。
それでいい。
コロネロはまだまだ若い。
だから間違ったってすぐに軌道修正可能なのだ。
だから。だから、ここで誤った箇所を正しておかないと大変な事になる。主に俺が。
綱吉はじいと真正面からコロネロの顔を覗き見て、「分かった?」と聞く。
コロネロの眉がピクリと動いた。



「ガキ扱いするなコラ。俺にはお前しか居ない。お前しか要らない」



瞳の碧がグンと深みを増した気がして、綱吉は驚き目を見開く。



「…あ……う、…」



いつの間に。
いつの間にこんなに良い男に育ってしまったのだろうか。
次第に顔が熱を帯ていくのを知りつつ、顔を背けられない。
交わる視線に、綱吉は悔しそうに下唇を噛み締めた。
断り方の選択肢は、職業上沢山蓄えている筈なのに。
どうして。どうしてこうも、うまくいかないのだろう。



「ッ、卑怯だ……」

「何とでも言えコラ」



断れない。追い詰められた。
チュッ、と額にキスを落とされる。
自分は攻めるだけだと思って、こちらの心情は全無視だ。
もし、お前なら。
お前が俺の立場なら。
どうやってこの状況を逃れるのだろうか。
お前はいつだって自由に羽ばたいて行く癖に。
俺だけにどうして鎖をつけるの。


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