小説:-)
□1周年記念フリー文
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二人でお酒を
「ほわー、意外」
目の前でぱちくりぱちぱちと長い睫と共に大きな瞳を瞬かせている大人が、随分と失礼な事を漏らした。
マーモンはへの字の口を更にキツクして、とりあえず僅かな殺気をかもしだしておく。
すると相手も失言に気付いたのか、ムグムグと口を動かしてからアハハ、と誤魔化し笑いを浮かべている。
「僕だって酒くらい飲むよ」
「ああ、うん。強そうっちゃあ強そうだけど、ホラ。マーモンと会う時はいつもドルチェばかり食べてたから」
偶々、ヴァリアー御用達の店で一人酒を煽っていた時に、この大物は一人で現れたのだが。
さて。
この穴場を教えたのは一体何処のどいつであろうか。
レヴィ、は綱吉を敵視しているから無い。
ルッスーリアも仲は良い様だが、そこまで関わりは無い筈だ。
モスカは論外。
スクアーロ、ベル、中々有り得ないがこちらのボス。
「君は何でここに?」
考えるのを放棄して、マーモンは素直に綱吉に問うてみた。
すると馴れ馴れしくカウンターの隣の席に腰を下ろした綱吉はへらりと笑う。
「ある人から教えてもらったんだよ。ここにマーモンと良く来るって」
「ム……ベルかい」
「そー、当たり!まさかと思って顔を出したらホントに居るんだもん。いやぁ、びっくりびっくり」
キャタキャタと何がおかしいのか綱吉は笑って、静かなバーテンにウイスキーを頼む。
ウイスキーか。
似合わないでもないが、やはりいつもドルチェを一緒に楽しんでいるせいかイメージがうまく合致しない。
「何飲んでるの?カクテル?」
「君にはカンケーないでしょ」
「えーっ、いいじゃんケチィ」
「そりゃどうも」
フンと鼻を鳴らしたマーモンに、綱吉はさっそく出されたウイスキーのチロリと舌で舐めてからクスリと微笑んだ。
「なんか新鮮だなー」
いつもはもっと、子供らしく甘い雰囲気で付き合っていたけれど。
こうして酒の場にて顔を合わせるのも悪くは無いのかもしれない。
只。
マーモンは未だ未成年ではあるが。
「今回は許してやるけどな。次からは無いと思えよ、マーモン」
ファミリーの未成年者の法律を守らせるのもボスの仕事だ。
そう綱吉は思っている。
そして信じて疑わない。
綱吉にとって父親である家光は、立派な反面教師として生きていた。
昔はランボ達に勝手に酒を飲ましてギャタギャタやっていたが。
正直、綱吉はそんな父親にキレていた。
あまりに非道徳すぎる。
そして綱吉はとりあえずアルコバレーノの飲酒調査とやらに乗り込んだのだ。
マーモンは運が悪かった。
リボーン、コロネロ、ラルにスカル。
ほぼ関わりを持っている子供達が余裕で飲酒を繰り返しているとくりゃあ。
そりゃキレもするだろう。
ちなみに密告者のベルはすでに説教済み。
その後は、まあ自然な流れで保護者代わりのザンザスに矛先は向かう筈だ。
そうニコッと笑った綱吉に、マーモンはヒクリと頬を引きつらせる。
にこにこにこにこ妙に綱吉の機嫌が良いのは既に酒が入っているからでもなく、酒を飲めるという心からでもなく―――怒りから。
「まぁ……以後気を付ける、よ」
「ん!素直でよろしい!じゃーカンパーイ」
カチン、と気持ち乾杯をして綱吉はグイッとウイスキーを煽った。
その横でマーモンは不味くなった酒をチビチビ舐める事しかできないが、酒の入った怒り交じりの綱吉は何をするか分からない。
歯向かうなんて強行は、出来る筈もなかった。
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