小説:-)

□1周年記念フリー文
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他人の関係





一重にファミリーといえども、他人は他人だ。
スカルは馬鹿みたいに騒がしい窓の外を眺めて、瞳を細めた。
銃声、金切り声、爆音。
どれもこれもが騒雑しく、平和とは一切関係ありませんという顔で自由勝手に暴れている。
一方で、スカルに掛る光はといえば月明かりのみ。
その月明かりが、ゆっくりと室内へと忍び込みスカルの後方を映し出す。
おびただしい量の血と、死体。
何、大した事はない。
ファミリー内での裏切りなんて案外何処にでもある事だ。
愚かで、実に間抜け。
失笑すらも浮かばないくだらなさだ。
スカルは生臭い匂いに眉を潜めて、己を照らす月を眺め見た。
血は別に苦手という訳ではないが、どうもこの匂いだけは好きになれない。
それこそ、この世に生を受け産声を上げたその日から隣り合わせであったものだが。
臭いわ、付くと落ちないわ、衛生情芳しく無いわで良い所がひとつも無かった。
そもそも他人の血なんて興味が湧かない。
どうだっていいのだ。
大体このファミリーの人間も1つの駒でしかないから、裏切る裏切らないは勝手にどうぞ。
裏切った所で大した支障も出ない、というよりも裏切ってくれた方がスカルにとっては好都合だ。
このいたいけな野心家達のお陰で、活躍著しいスカルの好感度は鰻上がり。
そう、駒。
この男達はスカルの好感度を稼ぐ為の駒でしかない。
馬鹿な人間達だ。
『態々ありがとう』と心の欠片も入っていない感謝の言葉を述べても、分からないといった風に疑問符を浮かべていた。
最期までその事実に気付かなかったようだ。
まあ気付こうが気付かまいがスカルには一向に関係が無いことだけれども。

ふと、月を見ていて一人の人間を思い出す。
あの人間。
あの変わった人間は、怒るだろうか。
この行為に対して、怒り、己を叱り飛ばすだろうか。
マフィアという血生臭い世界の頂点に君臨しながらも、慈悲深いあの人間。
柔らかな笑みと優しい声。
あの人間も他人なのだ。
今床に転がっている、あの人間達と同じ部類に配属される。
ただスカルにとって必要な駒と不必要な駒の、必要な駒に分類される貴重な存在ではあるが。
そうかそうか。
アレも他人か。
そう思うと何故だか笑いが込み上げてきた。
今更な事であるのに。
常識中の常識であるのに。
喉を震わせ、クツクツと笑う。
スカルは胸ポケットから携帯を出し、記憶していた番号を打ち込みコールボタンを押す。
番号登録はしていない。
もしものときを考えているから。

相手は、6度目のコールで漸く出る。



『―――もしもし、スカル?何……、何か用?』



寝ていたのだろうか。
擦れた声が耳を擽る。
その声を聞いた瞬間、スカルは何かが満たされて行くのを感じた。



「別に。ただ声が聞きたくなっただけだ」



欠けた月は未だ微笑んでいる。
スカルは月を眺めながら、チロリと乾いた唇を舌で濡らす。
他人は他人だ。
けれどもこの他人はいずれ他人では無くなる。
この手で奪い取ってしまえばいい。
スカルは受話器から響く声に対応しながらクスリと笑い他愛もない会話を切り出した。



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