小説2
□第二話
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ルキアと一護の入学式から二週間がたとうとしていた。新入生の表情にはゆとりが見えはじめ、ぎこちなかったクラスメイトとのあいさつも、今では昔馴染みのようにあたたかい。
「おはよう、一護」
校門を潜って直ぐのところで声をかけられ、一護は歩みをゆるめた。
「はよ、水色」
「この桜並木も、もうすっかり葉桜だね」
水色が新緑萌えいずる桜を見上げて言った。高校生にしては落ち着いた話題だが、彼らしいといってもいい。
「だな。きれーさっぱり、緑だけになっちまった…な……」
水色は気の散ったような一護の語尾に彼の顔を伺い見た。つられるように視線を追い、五メートル前方に案の定ある人物を見つける。
「あは、朽木さんだ。彼女って小さいから人ごみの中から見つけるの難しいと思うんだけど、さすが彼氏だね」
「は?」
一護は照れではなく本当にわからないというように水色を見た。
「一護、もしかして無意識?本当に朽木さんに恋してるんだね」
「お前、今すっげー恥ずかしいこと言ったぞ」
呆れつつも否定はしない一護に水色は笑む。
「一護、声かけないの?朽木さーん!」
「水色!声でけーだろ」
大きな呼び声に関係ない数人が振り返る。しかし、当の本人は歩行のリズムを乱すことなく、反応すらも見せない。
「あれ?朽木さん、聞こえなかったのかな」
「…………」
一護はルキアの後ろ姿を見つめ眉をひそめた。
水色の声にルキアより遠くにいた奴らもこっちを見たんだ。聞こえてないはずがねー。……まさか!
思わず大股でルキアに近づく。
「ルキア?」
肩に手をかけられて、ルキアはやっと立ち止まった。
「…おお、一護。小島くんも。おはようございます」
一護は黙ったままルキアの顔から目を離さない。
「どうしたのだ?」
ルキアが肩に置かれたままの一護の手に触れると、素早く掌がかえり手を握られた。
「一護?」
ルキアの紫に哀しげな一護が映りこむ。
そんな二人の様子に、水色が傍観を決め込もうとした時。
「グッドモーニング。マイトレジャー諸君!!」
身に覚えのある三人は揃って声のした方向を見る。
逸らされた瞳のかわりに繋いだ手を強く握られ、ルキアもそれ以上はなにも聞かなかった。
「きょ〜う〜は〜、とっておきのビックニュースがあっるんだよーん」
器用に両手を前に突き出し突進して来た啓吾は、珍しく暑苦しいスキンシップを抜きに喋りだす。
「ぬわんと!あの噂の秀才が、我が空座ハイネに帰ってくるのだぁ!」
「噂ってなんだよ」
一護の疑問には水色が答えをくれた。
「僕達が初等部のころ、アメリカのハイネに留学した一年後輩がいてね、その子が今年のはじめに飛び級試験を受けたって話題になったんだ。でも、まさか同級生として席を並べるとは夢にも思わなかったな」
水色の説明に頷いていた啓吾が突然色めく。
「ええ!?同級生ってどういうこと?空座ハイネって高等部だったの?水色、俺より詳しくない?」
「さあ。ただ昨日のデートでキョウコさんが言ってたんだよ。僕のクラスに季節外れの編入生が来るから楽しみにしてなさいって」
「マ、マジで!その編入生が噂の彼!?しかも同じクラス!すっげー!!」
そんなやりとりの中、ルキアがこっそり一護に話かけた。
「年下のクラスメイトか。なあ、一護。一体どのような人材だろうな。秀才に眼鏡は必須アイテムか?」
「お前、石田思い浮かべてね?」
「ばれたか」
勝手に話題に上げられ、眼鏡を光らせ怒る旧友が瞬時に思い起こされる。同時に笑いだした二人を、啓吾と水色は不思議そうに見ていた。
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