盲音の第三譜歌
□リソルート 〜決然と〜
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しばらくすると、ダアト式封咒の扉があった。
「これこれ。イオーン、出番じゃ」
「はい」
イオンが扉を開けたが、やはり体力に問題アリだった。
「イオン様! 大丈夫ですか」
「イオン様、疲れるですか?」
「大丈夫です」
「んなわけなかろう」
ビシッとつっこんだミツキはイオンに近付くと、イオンの手を握った。何かの譜術を使い――イオンは驚いた。
体力が回復して行く。
「ちょいとマシかえ?」
「はい! ありがとう、ミツキ」
「……お前ホントなんでもアリだな」
「イオン様、こちらで休まれますか?」
「大丈夫です。僕も行きます」
「無理すんなよ。きつけりゃ、声掛けろよ」
「ありがとうルーク」
すると地震が起きた。
「!」
平衡感覚に弱点アリのミツキは例の如く転びかけたが、とっさに隣にいたイオンが支えてくれた。……こういうとき男なんだなと思う。
「お、ありがとイオン」
「……また、どこか落ちたのか? それとも……」
「ええ、セフィロトの暴走による、ツリーの機能不全かもしれません」
「先ほどの地震といい、頻繁ですわね」
「地震が起きると、ここが空中だってこと思い出して、嫌な気分になるな」
「……」
地震……日本でもよく起きていたな。
「本当に。早く安心できる大地に戻したいですわね。……ミツキ? どうかなさいました?」
一瞬彼女はふと悲しい笑みを浮かべたが、首を振った。
「いや……行こう、時間が惜しい」
ユリア式封咒を破り、パッセージリングのそばに戻ってきた。
「なんか久々な気がする……ティア」
ミツキが伸ばしてきた手にティアは手を重ねた。
パッセージリングが起動して、ミツキに障気が流れるが誰も気づかない。
「兄さんはここに来ていないのね……」
「それならここのパッセージリングは第七音素さえ使えれば誰でも操作できるのかしら」
「いえ、操作盤が停止しています。たぶんシュレーの丘やザオ遺跡でヴァンのしかけた暗号を無視してパッセージリングを制御した結果、並列でつながっていた各地のパッセージリングが、ルークを侵入者と判断して緊急停止してしまったのでしょう」
「じゃぁ制御はできないのか?」
「まぁ、ルークの超振動でこれまでと同じように、操作盤を削っていけば動くと思います」
「力技ってわけか。で、俺は何をしたらいいんだ?」
「振動周波数の計測には、特に何も。ですが、今後のことを考えると外殻降下作戦の準備をしておいた方がいいでしょうね」
「なんか書けばいいんだろ? ミツキ」
「おう」
今度はティアといれかわりにルークと手をつなぐ。超振動を発動させて、ミツキが余分な分を制御する。
「第四セフィロトと、ここ――第六セフィロトを線で結んでください。第五セフィロトは迂回して。そこはアクゼリュスのことですから連結しても意味がない。第三セフィロトと第一セフィロトも線でつないでください。第六セフィロトの横に『ツリー降下、速度通常』と書いてください。それから『第一セフィロト降下と同時に起動』と」
パッセージリングが起動する。
「お、動いた」
「これってなんて意味なんだ?」
「第一セフィロト――つまりラジエイトゲートのパッセージリング降下と同時にここのパッセージリングも起動して降下しなさいっていう命令よ」
「こうやって、外殻大地にあるすべてのパッセージリングに同じ命令を仕込んでおくんです。で、最後にラジエイトゲートのパッセージリングに降下を命じる。すると外殻大地が一斉に降下する」
「なるほど。大陸の降下はいっぺんに済ませるってことか」
「納得。あとは地核の振動周波数だな」
「大佐、どうやって計るんですかぁ?」
「簡単ですよ。計測器を中央の譜石にあててください」
「俺がやろう!」
「さすが音機関偏執狂」
「……ミツキ、俺、君に何か勘に障ること言ったっけ?」
しかしあっけなく計測は終わった。
「……これだけか?」
「はい」
「つまんなーい。なんか拍子ぬけだよぉ」
「楽しませるための計測ではありませんからね」
「……ミツキ、笑ってるです」
アリエッタの呟きに視線をやると、ミツキがくすくすと笑っていた。
「知ってたな、おまえ」
「いや、悪い、言ってもなんだかなーと」
「言えよー。……ほかに何も隠してないよな?」
「む。ルー君もなかなか抜け目なくなってきたな。……しいて言うなら少々気持ち悪いな」
「何が?」
「すんなりと事が運んでる」
「確かにそうですわね……」
「まぁ、何もしてこないことに越したことはないが……戻ろうか」
一行はシェリダンに戻ることにした。