盲音の第一譜歌
□ジュ・トゥ・ヴ 〜お前がほしい〜
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数日して、すぐに回復した美月は、ディストの本拠地ともいえる研究所で書類整理にいそしんでいた。
あのあと、ただで衣食住をもらうのは気に食わないからと、ディストの助手のようなことをしていた。おもな仕事内容は書類整理と、ヴァンとの連絡役、ついでにディストの実験の手伝いだ。最初は文句を言っていたディストも美月と意外とすぐに仲良くなり、美月にとっては好展開であった。
まさか一番苦労するであろう人を最初に手なずけられるとは。
ところが困ったことに、ヴァン総長も美月を気に入ってしまったようだった。報告書を持って行くたびに、何かと引き留められ、ついでにヴァンの仕事を手伝っていたらいつの間にか普通に二時間、三時間と時間が過ぎていき、なかなか戻ってこない美月を心配したディストが総長の部屋に「いい加減ミツキを返してください!」と怒鳴り込む始末。それで終わればいいものを、「ミツキは私が保護しているのだ」となぜかけんか腰になる始末。
まぁ、ヴァンが美月を気に入ってくれたこともいいことなので、大目に見ることにする。
美月が、今オールドラントが、アビス本編の三年前だと気付いたのはすぐだった。
ちなみに、長かった黒髪はナタリアよりも短く切った。あの魔物に襲われたとき焼けてしまったのだ。無事だったおくれ毛だけ長く残していたが、邪魔なので二つに折って髪留めで止めている。軽くイオン様状態。
美月に与えられた衣服は、神託の盾騎士団の模様でこそないものの、軍服に近い作りであることは変わりない。
というか、袖が長く、裾も長くて、前は重ねて、日本の帯のような太めのベルトで止めるスタイルで、着物に酷似している。黒地に白いラインで施されたデザインは、やはりオラクル寄り。というか……。
(……なんで女物じゃないんだ)
ヴァンが用意したのは、女物とも男物とも思えない、中性的な軍服だった。もともと自分も中性的な顔立ちをしていたし、口調が雄々しいので、日本でも男勝りだったから違和感はないが。
……総長が用意したと思うと、意図を感じて腹が立つ。
あのあと、ローレライとの接触は皆無だった。トリップの夢主と言えば、最強クラスの譜術が使えるのだけれど、と思って、訓練所でカイザーディスト(試作品初号機)を相手にやってみた。案の定、第一音素から第七音素まで使え、しかも総長に引けを取らない強さだった。というのも、何を思ったか総長が「私とお手合わせ願おう」と訓練所にやってきたのだ。さすがに勝てなかったが、とりあえず引き分けだった。
おかげで変な人だかりができて観客がいたため、美月の名は神託の盾に知れ渡った。意外だったのはこの世界に薙刀があったことで、持ち歩くのは不便なので、白杖の表層部分にコンタミネーションでしまいこんだ。
……コンタミまで使えるのか、自分。
おかげでカイザーディストはボロボロになり、後でディストに怒られたが。
だが、「総長と互角のあの美女は誰だ!?」という話になり、なおかつ盲目だということで妙な畏怖を買ってしまった。
美月は称号『盲音のミツキ』を獲得した。