盲音の第一譜歌
□ソルフェージュ 〜in バチカル〜
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数日後――美月はヴァンに付き添われて、バチカルを訪れていた。
次の勤務先は――なんとファブレ公爵家。
しばらくヴァンがルークの面倒を見れないから、代わりに勉強を見てやってほしいとのこと。
「……にしても、なんで私が」
願ってもない接触のチャンスだが、髭一筋の赤毛ひよっこに受け入れられるか心配だ。
「おまえが適任だと思った。……私の計画のためにも、余計な知恵は付けさせたくないのだ」
「へー、私に手を抜け、ってか?」
「そうしてほしい」
「はいはい。じゃぁ人としての最低限だけ教えますよーだ」
ぜってー超インテリ子爵様にしてやるっ!
すぐに面会許可が下り、ファブレ家の応接間でヴァンと一緒に待っていたら、ファブレ夫妻が挨拶にきた。私はきれいに会釈し、名を告げる。
「なんと……貴女があの『盲音のミツキ』!」
なんだかファブレ公どころか、見張りに立っていた兵士さんたちまで驚いていた。何でこんなに私は有名人になっちゃってるのか、という意味を込めてヴァンの腕を小突いてやった。
しばらくして、お坊ちゃまと使用人がやってきた。
「……ったりーな。んだよ……」
「ルーク。ヴァン謡将が来ておられるんだぞ」
「!? 師匠が!?」
生ルークに生ガイ様キター!
マジで聞こえる、マジで聞こえるよあのボイス! こんなときほど両目を恨んだことはない。
まだ二人とも……若い!
「師匠!」
出た、髭大好き症候群。
「今日は剣の稽古、してくれるんですか!?」
「では話のあとにしよう。それよりルーク。前にも話したと思うが、しばらく私はバチカルに来られない」
そのとたんルークのテンションが急降下した。
「そう拗ねるな。そのかわり、優秀な代理を用意した」
「師匠が来れねーなら家庭教師なんていらねーよ」
「まぁそういうな。こちらの方だ」
と、ヴァンが背中を押して前に促してくれたので、美月は先ほどと同じようにきれいな所作で挨拶をした。
「お初にお目にかかります、ルーク様。私はミツキと申します。微力ながら、ルーク様の勉学を見させていただきます。どうぞよろしくお願い申し上げます」
目の前の少年たちは目を丸くした。美月の閉じたままの目に気付いたのだ。
「おい、おまえ、目が……」
「彼女は盲人だ」とヴァンが言うと、ガイは思い当たったという声で言った。
「盲目の……ミツキ……まさか、『盲音のミツキ』!?」
おー、ガイラルディア様にまで知れ渡っているか、私。
「はぁ? すげーやつなの?」
「失礼ですよルーク」と、シュザンヌさまがいさめてくれた。
「神託の盾で『盲音のミツキ』と言えば、ヴァン謡将と互角とうたわれるお方ですよ」
「奥方様。ミツキは正式な神託の騎士団員ではないのです」
「まぁ……わたくしはてっきり……」
「かなりの実力者なので、私は再三ミツキに入団を求めているのですが……」
「この世にヴァン師匠と互角なやつがいたなんて、驚きだぜ……」
「ルーク。ミツキは私と渡り合えるほどの剣の腕前だ。頭もいい。私が今度こちらに来れるようになるまでに強くなり、私を驚かせてくれ」
「師匠が言うなら……。まぁいいや。よろしくな!」
ルークが手を差し出した気配に、美月は少し戸惑った。ガイが小声で言い添える。
「ルーク。ミツキ殿は見えないんだぞ」
「あ、そうだった。どうすれば……」
「お気づかいありがとうございます」と、美月は手を出した。
「気配で大体の位置はわかりますので、お気になさらぬよう」
「? そうなのか? すげぇ」