盲音の第一譜歌


□ソルフェージュ 〜in バチカル〜
1ページ/10ページ


 数日後――美月はヴァンに付き添われて、バチカルを訪れていた。

 次の勤務先は――なんとファブレ公爵家。

 しばらくヴァンがルークの面倒を見れないから、代わりに勉強を見てやってほしいとのこと。

「……にしても、なんで私が」

 願ってもない接触のチャンスだが、髭一筋の赤毛ひよっこに受け入れられるか心配だ。

「おまえが適任だと思った。……私の計画のためにも、余計な知恵は付けさせたくないのだ」

「へー、私に手を抜け、ってか?」

「そうしてほしい」

「はいはい。じゃぁ人としての最低限だけ教えますよーだ」

 ぜってー超インテリ子爵様にしてやるっ!

 すぐに面会許可が下り、ファブレ家の応接間でヴァンと一緒に待っていたら、ファブレ夫妻が挨拶にきた。私はきれいに会釈し、名を告げる。

「なんと……貴女があの『盲音のミツキ』!」

 なんだかファブレ公どころか、見張りに立っていた兵士さんたちまで驚いていた。何でこんなに私は有名人になっちゃってるのか、という意味を込めてヴァンの腕を小突いてやった。

 しばらくして、お坊ちゃまと使用人がやってきた。

「……ったりーな。んだよ……」

「ルーク。ヴァン謡将が来ておられるんだぞ」

「!? 師匠が!?」

 生ルークに生ガイ様キター!

 マジで聞こえる、マジで聞こえるよあのボイス! こんなときほど両目を恨んだことはない。

 まだ二人とも……若い!

「師匠!」

 出た、髭大好き症候群。

「今日は剣の稽古、してくれるんですか!?」

「では話のあとにしよう。それよりルーク。前にも話したと思うが、しばらく私はバチカルに来られない」

 そのとたんルークのテンションが急降下した。

「そう拗ねるな。そのかわり、優秀な代理を用意した」

「師匠が来れねーなら家庭教師なんていらねーよ」

「まぁそういうな。こちらの方だ」

 と、ヴァンが背中を押して前に促してくれたので、美月は先ほどと同じようにきれいな所作で挨拶をした。

「お初にお目にかかります、ルーク様。私はミツキと申します。微力ながら、ルーク様の勉学を見させていただきます。どうぞよろしくお願い申し上げます」

 目の前の少年たちは目を丸くした。美月の閉じたままの目に気付いたのだ。

「おい、おまえ、目が……」

「彼女は盲人だ」とヴァンが言うと、ガイは思い当たったという声で言った。

「盲目の……ミツキ……まさか、『盲音のミツキ』!?」

 おー、ガイラルディア様にまで知れ渡っているか、私。

「はぁ? すげーやつなの?」

「失礼ですよルーク」と、シュザンヌさまがいさめてくれた。

「神託の盾で『盲音のミツキ』と言えば、ヴァン謡将と互角とうたわれるお方ですよ」

「奥方様。ミツキは正式な神託の騎士団員ではないのです」

「まぁ……わたくしはてっきり……」

「かなりの実力者なので、私は再三ミツキに入団を求めているのですが……」

「この世にヴァン師匠と互角なやつがいたなんて、驚きだぜ……」

「ルーク。ミツキは私と渡り合えるほどの剣の腕前だ。頭もいい。私が今度こちらに来れるようになるまでに強くなり、私を驚かせてくれ」

「師匠が言うなら……。まぁいいや。よろしくな!」

 ルークが手を差し出した気配に、美月は少し戸惑った。ガイが小声で言い添える。

「ルーク。ミツキ殿は見えないんだぞ」

「あ、そうだった。どうすれば……」

「お気づかいありがとうございます」と、美月は手を出した。

「気配で大体の位置はわかりますので、お気になさらぬよう」

「? そうなのか? すげぇ」
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ