盲音の第一譜歌


□ブウサギのワルツ 〜小犬のワルツより〜
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 美月は船の上にいた。グランコクマへ向かっていた。

 港まで送りに来てくれたガイとナタリアに礼を言って、バチカルから離れてから一カ月。

 ヴァンには「仕事が終わったらすぐに神託の盾に戻ってきてくれていいぞ」とまた言われ、髭もひげで懲りずに神託の盾に入れー、入団しろー、とうるさい。

 だがすべてを一蹴して、傭兵と絵で稼ぎ、いろんな場所を転々としていた。

 そして、ついに旅費が少なくなってきた。

 このままでは行き倒れる。と思った矢先、チラシが配られていた。

 手に持っているチラシには「傭兵、募集!」と書いてある。

「……迫りくる高レベル魔物を退治せんとする勇敢なる戦士募集……マルクト正規軍で退治できないなんて、すげー魔物だな」 

 ふむ。これは使える。

 早速応募し、他の傭兵が次々と逃走するなか、美月は勝利を手にした。確かに強い魔物ではあったが、ミツキにしてみれば弱い。

(なんでマルクト軍が手こずったんだろう……)

 手に入れた前金で、酒場で新聞片手にお茶を飲んでいた。さすがに昼間っから飲む趣味はないので、お茶。他の傭兵が逃げたので、賞金は独り占めなのだが、額が額なのですぐには振り込まれない。

 前金だけ直接もらって、今日の宿はどこにしようかなー、どうやってブウサギ皇帝と陰険鬼畜眼鏡に接触しようかなーと考えていたところ、後ろから声をかけられた。

「お嬢さん、すまねぇが合い席いいかね?」

 マスターが申し訳なさそうに聞いてきた。

 確かに店は混んでいたし、自分のテーブルは二つ席が空いている。

 深く考えもせず美月は快く了承した。

「構わない。なんなら出ていくが?」

「それには及ばん」と、別の声がした。気配は二人。

 ……聞き覚えあるぞ、この軽ーい声。

 片方はマスターに何か注文すると、こちらに寄ってきた。気配に敵意はない。

「すまないねお嬢さん。できれば俺の話し相手になってくれないかな」

 と、すっと指が顎をすくった。

 ……美月は言葉が出なかった。その瞬間視えたのだ。

だが、第三者があきれた声で止めた。

「陛……主人。職権濫用ですよ」

 意識を集中して視えたおぼろげな金髪二人組。片方は変装しているようだが片方はマルクト軍の青い軍服。

 物質の音素が見えるって便利♪

 眼鏡の方はやれやれとため息をつくと、こちらをむいた。

「すみません、あとでよく言い聞かせておきます。合い席よろしいですか?」

「よろしいに決まってるよな? 美人のお嬢さん?」

 ピオニーとジェイドじゃないですか。

 神様仏様ユリア様、幸運というべきか不幸と言うべきか……こんな場所で会えるとは。

 呆れてものが言えなかった。

 小さく「どうぞ」と返せば、変装ピオニーは満足そうに席につき、ジェイドは「ありがとうございます」とあの笑みで言う。

 さて、どう出たものか。
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