盲音の第二譜歌
□セクステッド 〜六重奏〜
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翌日、ゲームの如くイベントは進行した。
……というかかれこれ三年ぐらい、ゲームしてないんだけど。ちょっと忘れかかってるんだけど。そもそもゲームをしていたのは兄であり、自分は朧げにしか内容を覚えていなかったりする。
ルークの「俺も戦う宣言」のイベントも無事終了。内容がちょっと変わって「ミツキの怪我の二の舞はごめんだ!」である。いや、嬉しいような嬉しくないような……複雑。
セントビナーまでに出会う魔物なんて、このメンバーの中で桁違いのレベルを持っているミツキがいれば何ら問題ないのだが、ミツキはイオンのそばで見学していた。ルークたちのレベル上げも必要だろう。
やっとこさセントビナーだと思えば、神託の盾が待ち伏せしてくれていた。
「……町を閉鎖したか」
町に入り込むために、ローズさんの馬車(というか馬なのかなぞな魔物がいた)に乗せてもらった。
ぎゅうぎゅう詰めの馬車は揺れる上、目の分どうしても平衡感覚が悪いミツキには大変だった。途中大きく揺れた時に、かろうじて保っていたバランスも崩した。
「うぎゃっ」
「おぉっと」
壁と激突しそうになると、ぽすっと誰かに受け止められた。かすかな香水の匂いに、触れたとき視えたシルエットで正体に気付く。
「うわっとジェイド、すまない」
「あなたはどうしても平衡感覚が弱いんでしたね」
「仕方ないわ、ミツキはどうしても……」
「普段健常者と変わらないから、すっかり忘れてたな」
「それを補うためにバランス訓練だけは毎日のようにやってたんだがな……」
バチカルで、ルークたちの剣稽古に付き合っていただけではない。合間を見つけては、ミツキも自身の鍛錬を欠かさなかった。平均台をまっすぐに、杖なしで渡る訓練は毎日。健常者なら何の問題もないだろうが、目の見えない美月には落下の恐怖がある。
それを聞きつけたルークとナタリア、ガイ、さらにはファブレ夫妻まで心配して、訓練のときには必ず誰かがそばにいるように取り計らってくれた。今でも感謝している。
おかげで、だいぶマシになっていたはずなのだが。
「確かに戦闘におけるバランス感覚はずいぶん向上なさったようですが、限界があります」
「まぁな」と、苦笑してジェイドから離れようとしたら、ぐいっと引き寄せられた。そのまますっぽりとジェイドの中に収まる。
何が起こったかわからないミツキは戸惑った。後ろで「じぇ、ジェイド!?」「大佐!?」とか慌てた声が聞こえる。
「この揺れの中で、真っ暗なのはさぞ怖いでしょう。馬車が停まるまでこのままでいなさい」
大佐の真剣な声――美月を気遣ってくれたのだ。
ジェイドの言葉に気付いて、みんなも心配げに美月を見た。
彼女は真っ暗な世界にいる。
ホドの消滅とともに、両目も失ったのだ。家族も、すべて――。
「そんなに気を使わなくてもいい。でもお言葉に甘える。ありがとう、ジェイド」
「貸し1つですね」
「わーったよ、鬼畜眼鏡。借りは返すさ」
そのままミツキはジェイドの腕の中にいた。
……それを見ていたガイは、ふと眉をひそめた。
(あれ……? なんだ?)
旦那がミツキを抱いているのが、こう、なんというか、ムカっとした。気に障った。
ミツキは何ともない平常心の顔で大人しくしていた。