盲音の第三譜歌
□ラメンタビレ 〜悲しく〜
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下へ、降りて行く。
ティアの譜歌に守られて、ゆっくりと下へ。
地獄絵図、とはこのことか。
上から降ってくる瓦礫は、落ちては魔界の海に沈んでいく。
ルークは、頭を抱えてうずくまったまま。
ひどく震えて、身を小さくしていた。
ガイがそばにいるが、ルークにはどんな言葉も届いていないようだ。
ミツキはなんとか立っていたが、ジェイドに支えられていた。
「このまま下まで降りて行けそうです」
ティアは毅然と顔をあげ、歌い続ける。
「……みんな、沈んじゃったのかな……」
「いや」とミツキが答えた。
「大多数の負傷者はアクゼリュスからユリアシティに搬送しておいたから、生きているはず」
「どういうことですの……?」
「超振動、ですか?」
ジェイドの問いにミツキが頷くと、皆驚いた。
「へ、ミツキって超振動使えるの!?」
「アニス。ミツキが僕たちをモースから逃す時に使ったあの力、覚えていますか?」
「あ、はい。なんかピカーッて光って、気づいたらイオン様と一緒にマルクトへ……あっ! まさか!」
「驚いた……じゃぁ君、一人であのたくさんの人間を飛ばしたのかい!?」
「そうでなければこんなに消耗しません。ともかく人間は無事のようですね」
「そうでもない」と、ミツキが苦しげに答えた。顔を上に向けたので、視線で追うと、タルタロスが落ちてきた。
「あの中のオラクルは、助けてやれなかった……」
「ミツキ、治癒術を試してみますわ」
あんまり苦しそうなのでナタリアがそう申し出た。
無駄だと分かっていたが、逆らう気にもなれず大人しくされるがままになる。少しだけ、楽になった。
「イオン様。私たちがたどり着くまでに、何があったのですか?」
「はい……ヴァンは僕とルークを連れて、セフィロトのパッセージリングに向かいました」
「パッセージリングぅ?」
「セフィロト内部にある制御装置のことだ」と、ミツキが補足する。
「そこでヴァンはルークに、超振動で障気を中和するように言いました。しかしルークはできないと言ったんです。ミツキから、障気を消すほどの大規模な超振動は、命を脅かす危険もあるから止められていると」
ジェイドの視線が来たので美月は頷いた。
「ルークの超振動は不安定だ。中和なんて私でも出来るわけがない。あのバカ髭に確認を取って問い詰めるつもりだったんだが……」
「ヴァンはルークの力を暴走させました」
「暴走させた? どうやって……?」
「……『愚かなレプリカルーク』」
そう呟いたのはルーク本人だった。
抱えた膝に顔をうずめて、ルークは泣きそうな声で言った。
「師匠がそう言ったんだ…っ…」
「……暗示、ですか」
「ルークの超振動が暴走してパッセージリングが壊れた……ヴァンの目的は、ここを沈めることだったのか……」
「そのためにルーク様に暗示をかけてたってことですか? なんて……」
「……私のせいだ……」
ぽつりと、美月は呟いた。
「ミツキ……?」
「私が甘かった……あの髭を甘く見ていたか……ルーク」
ミツキはルークの許へ行くと、ルークを抱きしめた。びくっと肩を震わせたルーク。
「悪かった――お前を守ってやれなかった……すまない」
母親が子にするように。
美月が抱いたまま赤毛を撫でていると、次第にルークから嗚咽が聞こえてきた。
「もうすぐ到着します」
ティアが、気を奮い立たせるように毅然と告げる。
やがて瓦礫の上に着地した。
「ジェイド、大きな音素の塊が視える。魔界の海にも沈まずに浮いているものがある」
ミツキがそういうのでジェイドは視線を巡らせ、見つけた。
「あれは……タルタロス!」
「うっそぉ!?」
「浮いているのですか?」
「緊急用の浮標が無事作動して、この泥の上でも持ちこたえています。タルタロスに行きましょう」
「ああ。……ルー君、行くぞ」
幼い子の手を引くようにミツキはルークの手を引っ張った。