盲音の第三譜歌

□ゴーシュ 〜不器用に〜
1ページ/14ページ


 またというか、再び灼熱地獄の砂漠を一行は歩いていた。

 途中、アッシュからの便利連絡網がやってきて、ルークにオアシスに来るよう指示した。そのさい「人にものを頼むときの態度ってもんがあんだろ」とミツキに脅されていたが気にしない。

「あちー」

「なんでこんなとこ二回も通らな駄目なのよぅ……」

「イオン様、大丈夫ですか?」

「はい……」

「ミツキの黒い服なんて暑そうですわ……」

「でもジェイドの旦那みたいに涼しい顔してるぜ?」

 むしろさっきから歌ってる。

「『鏡なんだ僕ら互いに、それぞれのカルマを映すための

 汚れた手と手で触り合って 形が解る
ここにいるよ 確かに触れるよ

 一人分の陽だまりに 僕らはいる』……」

 ミツキの声は細く高い。

「てか、ミツキって歌うまかったんだね……」

「はいですの♪ ミツキさんは、ティアさんみたいに譜歌が使えるですの♪」

 初耳だった一同は驚いた。

「えぇっ!?」

「マジで!?」

「音律士だったのね……」

「今まで一言もおっしゃってくれませんでしたわ……」

「まぁ、ティアのユリアの譜歌以外、譜歌にあまり攻撃力はありませんからね」

「てゆーかミュウお前、んでそんなこと知ってんだよ」

「よく歌ってもらってたですの♪ 僕は最近になってから、族長は昔からよく聞いていたとおっしゃっていたですの」

「昔って……」

「三年ほど前ですの♪ ミツキさんはチーグルの森へ遊びに来てくれたですの。チーグルはミツキさんの譜歌が好きで、それ以来何度か来てもらうようにしたそうですの」

「チーグルが人間の譜歌を気に入る……そんなことあるんですかぁ?」

「僕も聞いたことがありません……ミュウ、ミツキはどんな譜歌を歌ってくれるんですか?」

「今歌ってる歌が一番多いですの♪」

 というので、全員耳をすませる。

「『忘れないで いつだって呼んでるから 同じガラス玉の内側の方から

 そうさ 必ず僕らは出会うだろう 沈めた理由に十字架を建てる時

 約束は果たされる

 僕らはひとつになる』〜♪」

「……とても譜歌の効果があるとは思えませんね……」

「魔物に、というかチーグルに効く特殊な譜歌とか?」

「そんな譜歌、聞いたことないわ」

「でもでも、ミツキならありえなくない? 私たちの秘奥義を特技で出しちゃうくらいだし;」

「ミュウ〜」と、ミツキがくるっと振り返ってミュウを耳から鷲掴みにした。

「あんまりぺらぺらしゃべるとぉ、丸焼にしちゃうぞ☆」

「ご、ごごごごめんなさいですのぉ〜!」

「まぁまぁミツキ。で、何故チーグルに気に入られるんですか?」

「乙女の秘密でぇす☆」

 と、アニスのまねをするミツキ。

「へぇ、あなた乙女だったんですかぁ」

「失礼な眼鏡だなオイ! ええそうですとも二十歳越えた老婆ですとも!」

「ま、待ってミツキ! まだ23なんて若いほうよ!」

「いやぁ根が正直なもので。で、ホントのところどうなんですか?」

 ミツキは少々睨みながら答えた。

「知らん。なんでチーグル族があの譜歌を気に入るのか、ディストでも解析不能だった。生まれつきの能力としか言いようがない」

「とても興味深いですね……旋律がチーグル族の気に入る音程なのか……」

「また歌ってくださいですの♪ 最近聞いてないですの」

「そういや最近忙しくてチーグルの森に寄りついてないからなぁ。今度里帰りした時に歌おうな♪」

「はいですの♪」

「さ、鶏が蒸しチキンにならないうちに行くぞ」

 ミツキは頭の上にミュウを載せると先を行った。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ