盲音の第三譜歌
□ゴーシュ 〜不器用に〜
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またというか、再び灼熱地獄の砂漠を一行は歩いていた。
途中、アッシュからの便利連絡網がやってきて、ルークにオアシスに来るよう指示した。そのさい「人にものを頼むときの態度ってもんがあんだろ」とミツキに脅されていたが気にしない。
「あちー」
「なんでこんなとこ二回も通らな駄目なのよぅ……」
「イオン様、大丈夫ですか?」
「はい……」
「ミツキの黒い服なんて暑そうですわ……」
「でもジェイドの旦那みたいに涼しい顔してるぜ?」
むしろさっきから歌ってる。
「『鏡なんだ僕ら互いに、それぞれのカルマを映すための
汚れた手と手で触り合って 形が解る
ここにいるよ 確かに触れるよ
一人分の陽だまりに 僕らはいる』……」
ミツキの声は細く高い。
「てか、ミツキって歌うまかったんだね……」
「はいですの♪ ミツキさんは、ティアさんみたいに譜歌が使えるですの♪」
初耳だった一同は驚いた。
「えぇっ!?」
「マジで!?」
「音律士だったのね……」
「今まで一言もおっしゃってくれませんでしたわ……」
「まぁ、ティアのユリアの譜歌以外、譜歌にあまり攻撃力はありませんからね」
「てゆーかミュウお前、んでそんなこと知ってんだよ」
「よく歌ってもらってたですの♪ 僕は最近になってから、族長は昔からよく聞いていたとおっしゃっていたですの」
「昔って……」
「三年ほど前ですの♪ ミツキさんはチーグルの森へ遊びに来てくれたですの。チーグルはミツキさんの譜歌が好きで、それ以来何度か来てもらうようにしたそうですの」
「チーグルが人間の譜歌を気に入る……そんなことあるんですかぁ?」
「僕も聞いたことがありません……ミュウ、ミツキはどんな譜歌を歌ってくれるんですか?」
「今歌ってる歌が一番多いですの♪」
というので、全員耳をすませる。
「『忘れないで いつだって呼んでるから 同じガラス玉の内側の方から
そうさ 必ず僕らは出会うだろう 沈めた理由に十字架を建てる時
約束は果たされる
僕らはひとつになる』〜♪」
「……とても譜歌の効果があるとは思えませんね……」
「魔物に、というかチーグルに効く特殊な譜歌とか?」
「そんな譜歌、聞いたことないわ」
「でもでも、ミツキならありえなくない? 私たちの秘奥義を特技で出しちゃうくらいだし;」
「ミュウ〜」と、ミツキがくるっと振り返ってミュウを耳から鷲掴みにした。
「あんまりぺらぺらしゃべるとぉ、丸焼にしちゃうぞ☆」
「ご、ごごごごめんなさいですのぉ〜!」
「まぁまぁミツキ。で、何故チーグルに気に入られるんですか?」
「乙女の秘密でぇす☆」
と、アニスのまねをするミツキ。
「へぇ、あなた乙女だったんですかぁ」
「失礼な眼鏡だなオイ! ええそうですとも二十歳越えた老婆ですとも!」
「ま、待ってミツキ! まだ23なんて若いほうよ!」
「いやぁ根が正直なもので。で、ホントのところどうなんですか?」
ミツキは少々睨みながら答えた。
「知らん。なんでチーグル族があの譜歌を気に入るのか、ディストでも解析不能だった。生まれつきの能力としか言いようがない」
「とても興味深いですね……旋律がチーグル族の気に入る音程なのか……」
「また歌ってくださいですの♪ 最近聞いてないですの」
「そういや最近忙しくてチーグルの森に寄りついてないからなぁ。今度里帰りした時に歌おうな♪」
「はいですの♪」
「さ、鶏が蒸しチキンにならないうちに行くぞ」
ミツキは頭の上にミュウを載せると先を行った。