盲音の第一譜歌


□アンプロンプチュ 〜即興曲〜
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 ダアトの裏手のフィールドにヴァンは出た。

 距離はさほど遠くない。むしろこの範囲なら神託の盾の物と言ってもよかった。
 無駄に譜歌を使って叩きつける雨をはじく。

 少し歩いたところで、ヴァンは胸騒ぎの正体に出会った。
 
 雨の中、黒髪を無残にも広げてうつぶせになって行き倒れている少女――いや、女性。
 その向こう、魔物の奇襲。


§ § §


 土のにおい。
 雨のにおい。

 美月はぼんやりとしていた。

 体が動かず、うつぶせたままそこにいた。どうしてこうなったかわからない。

 ただあのあと、少し意識が飛んで、気づいたら全身が冷え切ったまま動かずうつぶせていた。

 少なくとも、自分が横たわっているのは都会のアスファルトではない。

 水を含んでいる草に頬を浸したまま、近づいてくる気配を敏感に耳でたどった。

 家はもともと武道の名家だった。薙刀の。

 自慢じゃないがそれなりに腕はあるし、こういう気配にも敏感だった。
 
 近づいてくるのは、敵か、味方か。

 だが体は動きそうにない。頭も熱をもったようにぼうっとしていた。いつもなら見える物陰も、日の光がないのか見えない。ひどく薄暗い世界がぼんやりと見える。

 それが敵だとわかったのは、獣のうめき声がしたからだ。

 数匹いたうちの雑魚だけは、とっさに体術を披露して応戦出来た。だが、すぐに全身が動かなくなった。

 敵意を感じ、やられる、と思った。体は動かない。せめて最低限の防御をしたいものの、指先がかろうじて動いた程度だった。
 いよいよ敵を身近に感じた瞬間だった。

(……熱い!!!)

 熱気を感じた。火気が背中をかすめた。雨の中、火をだすなんて、どんな化け物が……?
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