盲音の第一譜歌
□アンプロンプチュ 〜即興曲〜
2ページ/9ページ
ダアトの裏手のフィールドにヴァンは出た。
距離はさほど遠くない。むしろこの範囲なら神託の盾の物と言ってもよかった。
無駄に譜歌を使って叩きつける雨をはじく。
少し歩いたところで、ヴァンは胸騒ぎの正体に出会った。
雨の中、黒髪を無残にも広げてうつぶせになって行き倒れている少女――いや、女性。
その向こう、魔物の奇襲。
§ § §
土のにおい。
雨のにおい。
美月はぼんやりとしていた。
体が動かず、うつぶせたままそこにいた。どうしてこうなったかわからない。
ただあのあと、少し意識が飛んで、気づいたら全身が冷え切ったまま動かずうつぶせていた。
少なくとも、自分が横たわっているのは都会のアスファルトではない。
水を含んでいる草に頬を浸したまま、近づいてくる気配を敏感に耳でたどった。
家はもともと武道の名家だった。薙刀の。
自慢じゃないがそれなりに腕はあるし、こういう気配にも敏感だった。
近づいてくるのは、敵か、味方か。
だが体は動きそうにない。頭も熱をもったようにぼうっとしていた。いつもなら見える物陰も、日の光がないのか見えない。ひどく薄暗い世界がぼんやりと見える。
それが敵だとわかったのは、獣のうめき声がしたからだ。
数匹いたうちの雑魚だけは、とっさに体術を披露して応戦出来た。だが、すぐに全身が動かなくなった。
敵意を感じ、やられる、と思った。体は動かない。せめて最低限の防御をしたいものの、指先がかろうじて動いた程度だった。
いよいよ敵を身近に感じた瞬間だった。
(……熱い!!!)
熱気を感じた。火気が背中をかすめた。雨の中、火をだすなんて、どんな化け物が……?