盲音の第一譜歌
□ソルフェージュ 〜in バチカル〜
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「ではミツキ、ルークを頼んだぞ」
「任せなヴァン。……じゃなかった、総長」
「うむ。ではルーク、剣の稽古を」
やりぃ! とルークが嬉しそうにヴァンと出ていったのを見て、ファブレ公はガイに命令した。
「ガイ。ミツキ殿に屋敷をご案内して差し上げろ」
「はい、旦那さま。ではミツキ殿、こちらへ」
あくまで触れない女性恐怖症(笑)。
応接間を出てから、すぐにミツキは言った。
「殿、をつけなくていい。敬語もなし。普通に話してくれ」
「え? ああ、そうさせてもらうよ。俺はガイ・セシルだ」
知ってますよ。えー分かっていますとも。
分かっていて美月は握手を求めた。
その瞬間ガイの気配は遠のいた。
「す、すまない……女性恐怖症で」
くすっとミツキは笑った。
「分かった。不用意に近付かないことにする」
ティアのセリフをまんまパクッた。
「あ、ありがとう。ところでその……目が見えてないのにヴァン謡将と互角って、本当かい?」
やっぱり疑いますか。
まぁそりゃ普通信じられないわな……。
「互角かどうかは知らないが、ヴァンを何度か締め上げた経験はあるな」
いろんな制裁をくらわしたのを思い出し、遠くを見つめるミツキ。もちろん見えていない。
「(あのヴァンを締め上げた……/汗)そういえば神託の盾騎士団じゃないって言ってたけど……」
「ああ。ヴァンには少し前に拾われた。もともと旅をしながら傭兵をしていて、一年間の契約で神託の盾にいた。契約が切れて、次の就職口を探していたら、ヴァンがここを手配してくれた。引き受けたからには、ルーク様を立派な子爵にしてみせるから安心して」
「あのルークを立派な子爵様に、ねぇ……」
なんだかんだいってガイは、ルークの面倒をしっかり見ているわけではない。まぁ彼の経緯を考えれば当然のことだが、ゲームのときは少し引っかかった。
「ここが君の部屋だ」
ゲームと同じ構造の屋敷にほっと安心した。いや、まだ奥とかあって、公爵の屋敷なんだからもっと広いんだろうけれど。
ガイが荷物を部屋に運んでくれて、そのあとはすぐに中庭に出てみた。
「お、やってるな」
ガイがベンチまで案内してくれたので、二人で座ってルークとヴァンの稽古を眺める。
美月は気配だけで、ルークの剣筋を確認した。
(やることがないだけ暇っていうか、腹筋だけは鍛えてあるっていうか……)
足腰や筋はいいのだが、ルー君はずいぶんおおざっぱだ。
美月がルークを「見ている」ことに気付いたガイが話しかけてきた。
「どうだい、うちの坊ちゃんは」
「筋はいいな。ふだんから鍛えているだけのことはある。ただ、ちょっとおおざっぱだな。伸びしろは十分あるから、とても楽しみだ。……その前に懐いてくれるかどうかが問題だな」
「ヴァン謡将のいいつけなら、大丈夫さ。ところで君、いくつだい?」
女性に年を聞くのはどうかと思うが、と付け足すガイ様。
ミツキは大人の女性の雰囲気を兼ね備えているが、ふと見れば少女の顔をする。ヴァンですら年齢が判然としなかったのだ。
「ガイはいくつなんだ?」
こちらにきて時間感覚がちょいとくるっているミツキは念のため確認した。
「今は19かな」
「では、二つ上だ」
「21か。……ヴァンも隅に置けないな」
「? ヴァンがどうした?」
「いや、なんでもない」
ヴァンがミツキを見つめる姿に、ガイは確信したのだ。アイツ完全に惚れちまってる。
おまけに悲恋。
そのときミツキが「あ」と声を上げた。見ると、ルークがいつもどおりヴァンに吹っ飛ばされていた。
「いってー。やっぱ師匠は強いな」
「まだまだだなルーク。ミツキに鍛えてもらい、強くなりなさい」
その言葉で気づいたルークはベンチにいる二人に目をやった。
「……師匠、俺、師匠の言葉を疑うわけじゃないんだけどさ……」
ルークの視線を感じて、ミツキは不敵に笑った。
「まぁ、普通は信じられないよなぁ……」
「師匠はただでさえ強いのに、目の見えない女が互角だなんて反則じゃん!」
「これルーク。今のは女性差別だぞ」
とガイがいさめたが、ミツキは笑うだけだった。ヴァンも笑う。
「ではルーク、実際に見てみるといい。ミツキ、腕を見せてやってくれ。ガイ、ミツキの相手を」
「え」とガイは固まった。凛々しいが相手は間違いなく女の子である。
それに気づいたミツキがまじめな顔で言った。
「卑怯な方法で不用意に触れないと、ユリアに誓おう」
「あ、ありがとう。お手柔らかに」
入れ替わるようにベンチに戻ったルークは、不思議に思ってヴァンを仰いだ。
「師匠、あいつ丸腰だぜ?」
同じことを思ったガイも、ヴァンをみた。
「心配ない。ミツキ、思う存分やりなさい」
「へーい。ガイ、いざ尋常に勝負」
「こちらこそ」