盲音の第一譜歌
□ソルフェージュ 〜in バチカル〜
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ミツキが持っていた白い杖が瞬時に薙刀に変わる。ルークが「すげー」と目を丸くしていたが、ガイも目を丸くした。
(薙刀……)
このオールドラントでは珍しい。
そしてなにより、彼女の構えは隙がなかった。しばらく隙を窺っていたが、彼女は薄く笑った。
「そちらからどうぞ」
「挑発には乗らないよ」
「では遠慮なく」
その瞬間、ガイの視界からミツキが消えた。
気づいた時にはもぐりこまれていた。
(速い……!!!)
しばらく防戦一方になった。あんな細い腕から、こんなに力強い攻撃が繰り出されるのが不思議だった。
「防御だけでは私には勝てない」
と、わずかな瞬間に聞こえた。そして彼女がわざと隙を出した。すかさず狙うが、にやりとミツキの唇が歪んだのを目撃した。
「もらった!」
「しまった!」
あっというまに剣をはじかれて、首筋に刃が当てられた。
「そこまで!」
というヴァンの声にミツキはぴたっと動きを止めた。剣をはじかれた時に尻もちをついていたガイは、内心焦った。
(強い……!)
ヴァンが一目置く理由が分かった。
「なーにやってんだよガイ! ミツキおめぇ、強いな!」
ルークが言ったのと、美月が薙刀を元の白い杖に戻したのと一緒だった。
「おほめにあずかり光栄です、ルーク様」
「様なんてつけんなよ。あと、ガイみたいにフツーに話してくれ」
「ではそうさせてもらう。……立てるか、ガイ」
「え、ああ。強いなぁ、君」
「お前も強かった。久々にヴァン以外でいい相手を見つけた」
「お、俺だってガイと毎日練習してるんだぞ!」
と割り込んできたルークに、ミツキは苦笑した。……すぐむきになるところ、どこぞの赤毛鶏とそっくり。
「それは楽しみだ。ぜひルークとも…といいたいところだが、もうすぐ総長が帰られる。今日はお開きとしよう」
ルークとガイがしゃべりながらだらだらと屋敷に帰っていくのを見ながら、ミツキは不意に六神将たちを思い浮かべていた。
ミツキ、と仕事の合間に何かと理由をつけて会いに来てくれた彼ら。見えない自分をいつも気遣ってくれて、とても優しい。
考え込んでいたのを勘違いした総長が話しかけてきた。
「ミツキ、気づいていると思うが、ルークは……」
その言葉で髭が何を言いたいのか分かった。
「ああ。アッシュのレプリカだろ? ……見た目はそっくりだが、中身は違うな」
「……このことは――」
「『計画に含まれている』、だろう? 大丈夫だ。私は気付かなかった、他人の空似だと思い込んだ、ということにしておく」
「そうか……ミツキ」
振り返ろうとしたら、後ろから抱き締められた。
「……おい」
「……手放しがたいな」
ヴァンが真剣に美月のことを気に入っているのは知っていたが、今まであえて真剣に相手にしなかった。いずれヴァンは私を敵にするだろうから。
だが、今の声は切なく聞こえた。
「ヴァン……私は――」
「抱き心地がいい」
「…………おい、髭」
と、怒気を込めた低い声で告げた。
「三秒以内に離れろ。そしたら見逃してやる。3・2・1……」
「ちょ、待てミツk……」
「インディグネイション!」
「ぎゃぁあああああああ―――っっっ!!!」
髭の断末魔の声に、ルークたちがぎょっとして戻ってきた。
総長は黒こげになって中庭に転がっていた。
「謡将ーっ!?」
「師匠ーっ!?」
「制裁!」
と、ミツキは捨て台詞をはいてツカツカと部屋に戻った。
ガイたちとすれ違う瞬間、ミツキは低い声でつぶやいた。
「このクソ髭、覚えてろよ」
この瞬間、ルークとガイは悟った。
ミツキを怒らせていけない。
絶対にいけない。