盲音の第一譜歌
□ブウサギのワルツ 〜小犬のワルツより〜
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運ばれてきた酒杯は三つだった。不思議に思っていると、そのうちのひとつを美月に差し出すピオニー。
「合い席の礼だ」
「……ありがとう」
素直に受け取って一口飲んでいると、じーっと二人の視線を感じた。この目だから慣れているが、相手が相手だけに不快に思い、美月は軽くとげのある声で言った。
「何か?」
「いや、その……」
ピオニーが言いづらそうにしていると、ジェイドが言った。
「あなたは目が見えていないようなので、この万年常春頭は気になったようです」
「ジェイド……。いや、すまない。君のような可憐な女性が、一人で酒場にいるのも珍しくてな」
ふ、と美月は薄く笑みを浮かべた。
「……それを言うなら、一国の主がこんな酒場にいるのも、問題だと思うが?」
美月はそう言ってみた。案の定、二人は驚いた顔をする。
「おや陛下、バレてますよv」
「……そちらは死霊使いとお見受けするが」
ジェイドさんの赤い目が丸くなった。
陛下がニヤニヤして言う。
「おまえもバレてるぞ☆」
「珍しいこともあるものですねぇ。どうかこのことは――」
「口外するつもりはない。だが――」
読んでいた新聞を折りたたんだミツキは、眉を寄せた。
「なんでこんなところに」
「うーん、ちょっと人探しを、な」
運ばれてきた料理を口にするピオニー。となりで大佐はカレーを食べている。
「魔物討伐に応募した子が、一人で巨大魔物をやっつけた、と聞いた。そいつは女で、傭兵をしているという。屈強な男も逃げ出した怪物を倒したその子に、会ってみたくなってな」
「まだ報奨金を払い終えていないので、城下のどこかに滞在していると思い、探しにきた次第です」
おやおや。皇帝が御ん自らおいでになったよ(失笑)。
「確か……『ミツキ』といったか? 他に手がかりは?」
「担当の兵たちはあまりの魔物の怖さに逃げ出してきましたからねぇ……その女性の特徴を確認する暇もなかったようです」
「腰ぬけどもめ」
言葉とは裏腹に、楽しそうな陛下。
今まで黙っていたミツキは、そっと聞いてみた。
「そのミツキって人に会って、どうするんだ?」
「そういや考えてなかったな……何するんだ、ジェイド?」
「はぁ……あなたが会いたいって言い出したんでしょう。……本音を言えば、少しお話をしたいんです」
「……話?」
「ええ。そのミツキと言う方は、神託の盾騎士団ではありませんが、あのヴァン謡将に一目置かれ、互角とうたわれる方だそうです。二つ名は『盲音のミツキ』。名前の由来はわかりませんが、主席総長と互角ということは相当なモノです」
「そんなやつが、どこの国家に所属することなく傭兵をしている。ちょっと気になってな。できることならマルクト軍に誘いたい」
「ま、敵に回る前に味方にしてしまおう、というわけです」
「ふーん……」
さして興味なさそうにそう答えてやった。
……こんな高評価されているとは(汗)。